






【蚊取り線香の話】
夏の蚊対策に、蚊取り線香はお使いですか。今では虫よけスプレーや電気式の虫よけなど、便利なものが数多くありますが、蚊取り線香の香りは今もなお、日本の夏を感じさせる風物詩です。
蚊取り線香の香りを嗅ぐと、縁側での夕涼みや花火、盆踊りなど、夏の出来事を思い出すという方も多いのではないでしょうか。私はよくやっていた庭の草むしりを思い出します。これは心理学でいう「プルースト効果(香りが記憶を呼び起こす現象)」とも関係すると考えられています。そのため近年は、虫よけだけでなく香りや雰囲気を楽しむ目的でも使われています。
日本は湿潤で水田も多く、古代から蚊が多い国でした。奈良・平安時代には、ヨモギの葉・カヤの木・杉や松葉などを燃やし、その煙で蚊を遠ざけていました。これが「蚊遣り火(かやりび)」です。平安時代から、明治時代に蚊取り線香が誕生するまで、人々は蚊遣り火を使い夏を過ごしていました。
煙は、ときに人々の想像力をかき立てる存在でもありました。江戸時代の絵師・鳥山石燕は、『今昔百鬼拾遺』に、煙から生まれた妖怪「煙々羅(えんえんら)」を描いています。蚊遣り火や線香、囲炉裏など、暮らしの中に煙が身近にあった時代だからこそ、生まれた想像力だったのかもしれません。
夏目漱石の俳句にも蚊遣りが出てきます。
うき人の顔そむけたる蚊遣かな
「うき人」は、思うようにならない相手や、つれない人という意味です。つれない人が顔をそむける情景に、蚊遣りの煙が漂う夏の室内が重なり、どこか気まずさや切なさを感じさせます。
仏教の伝来とともに香を焚く文化が育まれ、平安時代には香りを楽しむ「薫物(たきもの)」の文化へと発展する一方で、庶民の暮らしには、ヨモギや松葉を燃やして蚊を追う「蚊遣り火」が存在していました。目的は異なりますが、どちらも煙や香りを暮らしに取り入れ、日本人ならではの季節感や美意識が育まれています。
現在の伝統的な蚊取り線香は、除虫菊(シロバナムシヨケギク)を原料としています。除虫菊は明治初期に日本へ導入され、その有効成分であるピレトリンに殺虫効果があることが知られてきました。除虫菊の粉末を線香と同じように成型する製法により、明治23年(1890年)ごろ、和歌山の実業家・上山英一郎によって棒状の蚊取り線香が製造されます。その後、妻の上山ゆきの発案により、長時間燃える現在の渦巻き型が考案されました。防虫の知恵と、古くから受け継がれてきた線香づくりの技術が結び付いたことで、蚊取り線香は実用品であると同時に、日本の夏を象徴する香りとして親しまれるようになりました。
香り、音、目に映る風景から涼を感じる日本の夏。蚊取り線香や風鈴、うちわは、今も五感で季節を味わう日本ならではの風物詩です。今年の夏も、そんな風情を楽しみたいですね。
くわな鋳物 蚊やり器
https://www.shokunin.com/jp/kuwana/kayariki.html
岩本清商店 豆火鉢
https://www.shokunin.com/jp/iwamoto/hibachi.html
栗川商店 渋うちわ
https://www.shokunin.com/jp/kurikawa/
TOUCH CLASSIC 風鈴
https://www.shokunin.com/jp/touchclassic/furin.html
参考資料
https://ja.wikipedia.org/wiki/蚊遣り火
https://ja.wikipedia.org/wiki/煙々羅
https://ja.wikipedia.org/wiki/蚊取り線香
https://ja.wikipedia.org/wiki/シロバナムシヨケギク
https://www.kincho.co.jp/factory/shiryou/index.html
https://tsurezuregusa.com/019dan/
https://www.kincho.co.jp/factory/listen/detail.html