


【『グロリアソサエテ』という本】
百年前のお話、宗教哲学者の柳宗悦が住む京都の家を舞台に、「民藝」の世界を切り開いた人々の日常を描いた物語です。こちらの物語はフィクションと史実が混ざり合っており、関東大震災で被災し京都へ移り住んだ柳家に、女中として奉公に上がった少女サチの目を通して描かれています。「民藝運動」?と聞くとなんだか難しく思えるのですが、のんびりとしたホームドラマを見ているような感覚で読み進められます。先輩大女中とのやりとりもおかしく、柳家の食卓に並ぶ料理の描写はまるでレシピ本のようです。柳家の食卓なだけに、その料理をどんな器に盛るかが大問題。スリップウエアの大皿には牛挽肉とマッシュポテトのグラタンが盛り付けられるのですが、当時はまだオーブンがなく、大切な皿が釜戸の中で割れもひびも入らぬようにと大奮闘するサチの姿があったり、台所道具なども丁寧に描かれ、大正〜昭和の日常生活を覗くことができます。まさに日常の中に“美”を追い求める「民藝」。生活の中にすっと入り込んで学べる印象です。
そして、この物語の中で際立っているのが、柳氏の妻で声楽家の兼子さんの存在です。一家を経済面で支える、明るく肝っ玉のすわった頼れる女性という印象。この時代の女性がやりたいことを貫く難しさも感じさせてくれました。印象的だったのは、夫・柳氏に、「わたしは、あなたがすべてだわ。でも音楽もわたしのすべてなの。半分ずつじゃないの。両方ともすべてなの」と言い放ち、全力で柳を応援すると同時に音楽にも全力で臨むというセリフです。しかしながら柳氏は妻に「芸術家たれ!」と結婚したものの、いざ妻になると話は変わり、兼子の芸術性を認めつつ、「で、僕のご飯は?」となる様子も、わたくし50代の女性にはあるあると共感してしまいました。柳氏といえど、家庭人としては明治の男性の典型だったようです。作者の朝井まかてさんの文章も穏やかでリズムもあり、当時の京都の様子や朝市、旬の食べ物など、そのシーンを想像しながら、女性目線でほっこりと読むことができます。ぜひ兼子さんを主人公にした朝ドラを!という気持ちです。
もちろん民藝好きの方にも、その「民藝」という言葉が生まれたストーリーや中心となった柳宗悦や濱田庄司、河井寛次郎という陶芸家たちの出会いや想いにも触れることができます。「民藝」という言葉が“民衆の民”と“工藝の藝”だったこと、てっきり“芸術の藝”かと思っていました。そんなことにもやんわりと気づかせてくれるストーリーです。
読み進めるうちに、駒場東大前の日本民藝館・西館に行ってみたくなりました。柳宗悦が1935年から1961年に72歳で没するまで生活の拠点としていた自邸です。民藝館同様、自邸の西館も柳氏の設計によるもの(石屋根の長屋門は栃木県から移築)です。西館には、物語に登場する子供達の部屋やにぎやかであったであろう居間や食堂があったり、妻兼子さん愛用のピアノや歌声も流れていたりと、ぜひ、物語を読んで訪れてほしい場所です。そして本館民藝館では、「柳宗悦と日本民藝館」が開催されています。資料に基づき創設当時の常設展の再現展示を見ることができたり、柳氏の審美眼で選び抜かれた諸工芸品だけではなく、それを取り巻く壁紙や陳列ケースなども必見です。清々とした独特の空間の中でぼ~っとしていると、改めてキラキラしたものだけではなく“下手物すなわち日用品に自由な美を見出し、それらを民藝と名付けた”という文面を思い出しました。
『グロリアソサエテ』 朝井 まかて (著)
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開館日カレンダー ※西館公開日は月4回のみです。
https://mingeikan.or.jp/information/calendar/
銀座ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/ginza.html
参考資料
https://mingeikan.or.jp/about/soetsu/
https://note.com/naomin_0506/n/nfc7adac38178
https://kadobun.jp/feature/interview/entry-149106.html