

【石ッコ賢さん】
先日、「石のお話会」なるものに参加する機会がありました。その際に講師の方が「東北地方は地質的にバリエーション豊かな石がある」とおっしゃっていて、ふと宮沢賢治のことを思い出しました。
宮沢賢治は詩人、童話作家としてよく知られていますが、鉱物が大好きだったようです。子どものころには熱心に石を集めていたことから「石ッコ賢さん」とも呼ばれていたほどの石好きで、大人になってからも、人造宝石を事業としようと構想して父に融資を持ちかけ、断られたりもしていたそう。
そんな賢治がそもそも「石好き」になったのは、身近に多様な石が豊富に採取できる土壌で生まれ育ったからこそなのではないだろうか――お話会での講師の方の言葉を聞いて、そう思いました。東北・岩手という豊かな地質に恵まれた土地で育ったからこそ鉱物に関心を抱き、その知的好奇心がひいては地質学への興味へとつながっていったのではないだろうか、と。
宮沢賢治といえば、私の中でのそれまでのイメージは『雨ニモマケズ』の作者でした。自己犠牲的で、奉仕の心に満ちた聖人君子のような印象を持っていたのです。
しかし、映画にもなった『銀河鉄道の父』という小説を読み、「宮沢賢治」という人に改めて興味が湧きました。父の視点から描かれる賢治は、なんと手のかかる、人間くさくて面倒な人物なんだろう。映画化された作品も観て、賢治の人生を以前より少し知ることができたことで、そのイメージは大きく変わりました。
きっと、そんな人間味あふれる賢治に惹かれる人は多いのでしょう。だからこそ、「宮沢賢治」という人物はさまざまな側面から語られ、その人生や作品がたびたび論じられてきたのだと、腑に落ちた気もしました。
宮沢賢治の地質への造詣は、土壌改良や肥料といった農業技術にも生かされています。思い返してみれば、賢治の物語には豊かな自然が満ちあふれています。その中でも印象的なのが、やはり鉱物にたとえた表現なのです。水晶やトパーズ、琥珀など、鉱物に重ねられた描写は今読んでもみずみずしく、美しく響いてきます。
その賢治が「イーハトーブ」と呼んだ岩手の自然。その豊かな土壌があったからこそ、現在もさまざまなかたちで取り上げられる「宮沢賢治」像が形成されていったのではないでしょうか。
今回、「石」を通じて宮沢賢治への視点がまたひとつ変わったことで、賢治の作品をこれまでとは違った、新たな角度から楽しむことができそうだと感じています。
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