
【シマエナガ】
北海道で暮らしていると、冬の空気がふっと静まり返る瞬間があります。その静寂を破るように、白い影が木々の間を跳ねる、そんな光景をいつか自分の目で見てみたいと思わせる鳥がいます。「シマエナガ」です。
シマエナガは、「雪の妖精」と呼ばれる、北海道にのみ生息する小さな野鳥です。体長はわずか13~14cmほど、体重は8g前後で、なんと500円玉と同じくらいの軽さ。本州に生息するエナガの仲間ですが、シマエナガには顔に黒い過眼線がなく、顔全体が白いまんまるの印象を持っています。その可憐な姿は、雪深い冬の森を漂うための進化の結果ともいえます。冬のシマエナガは、羽毛を膨らませて体を丸く保ち、空気の層を作り体温を逃さないようにしています。私たちがダウンを着込むように、彼らもまた自然の中で自らの命を守るためにふわふわの姿へと変わっていきます。冬の姿だけでなく、雛たちが枝に並んだ「シマエナガ団子」と呼ばれる姿もSNSで話題となりました。
そんなシマエナガは、北海道に一年中いる留鳥です。冬だけではなく、夏もちゃんと森で生きています。ただ、夏は保護色として茶色味が強くなり、ふわふわの白い姿とは全く違う表情を見せます。そのため、雪の妖精のあの白くて丸い姿と出会いたいなら、やはり冬が最適というわけです。
私は今まで、北海道の都会から離れた自然豊かな場所でしかシマエナガを見ることができないと思い込んでいました。調べてみると札幌市内の公園や、小樽にもシマエナガが暮らす森がいくつもあることが分かりました。なかでも、長橋なえぼ公園、手宮公園、小樽公園、平磯公園は実際にシマエナガの姿が確認されている場所として知られています。長橋なえぼ公園は、旧営林署の苗畑跡を活用して造られた自然生態観察のための大きな森です。冬でも園内の散策は可能で、雪原に残る動物の足跡、葉を落とした木々の枝ぶりが視界を開いてくれるので、小鳥たちの動きが見えやすくなる季節でもあります。
冬の森を歩いていると、枝先で「ジュリリ…」という小さな声が聞こえてくることがあります。その一瞬が、出会いの兆し。群れで行動する習性があるシマエナガは、1羽見えなくても仲間が必ず近くの木に止まっています。小樽の公園のどれもが、街に近いのに自然が濃く、人の手で守られながら野鳥たちが静かに息づく場所です。いつか見られるかもしれないという小さな希望を抱きながら歩く散策路は、それだけで心をほぐしてくれます。
シマエナガの姿は、北海道の厳しい土地で生きるために生まれた造形です。冬は白く丸く、夏は茶色く細く、四季の移ろいに合わせてその姿を変え、命をつなぎ続けています。かわいいという言葉だけでは語りきれない、自然がつくり上げた機能美がそこにあります。私はまだ、シマエナガと直接出会ったことがありません。けれど冬の朝、小樽の森を歩きながら白い息を一つ吐くたびに、今日こそ会えるかもしれない、そんな想いが胸に灯ります。
自然の中で生きる小さな命に、こちらから合わせていく時間。急いではいけないもののような気がします。いつか、小樽の公園でかわいらしい鳴き声に耳を澄ませて、ふわりと枝に止まる白い影を見つけたら、その瞬間を大切に心に刻みたいと思っています。
長橋なえぼ公園
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020111600430/
手宮公園
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020111600690/
小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html