





【旧寿原邸を訪ねて】
小樽の高台、水天宮のすぐ隣に「旧寿原邸」があります。昨年、たまたま水天宮へお参りに行ったところ、以前から気になっていた旧寿原邸がすぐ近くにあることを知り、ちょうど一般開放期間でもあったため、立ち寄ってみました。
旧寿原邸は1912年(大正元年)の小豆将軍として知られた高橋直治によって建てられ、その後1934年(昭和9年)に小樽の実業家・寿原外吉氏の邸宅として改築された歴史ある建物です。現在は小樽市に寄贈され、市指定歴史的建造物として保存されています。一般公開の日に訪れると、坂の上に凛とたたずむ邸宅が目に入り、思わず歩みがゆっくりになります。
邸宅は水天宮の北側の急な斜面に沿って建てられており、主屋から上手(かみて)へと二つの接客棟が階段状につながる、独特の構造をしています。斜面の高低差を巧みに生かした三段構成の庭が設けられているのも特徴で、和・洋・石蔵が並ぶ全九室の建物と合わせて、変化に富んだ表情を見せる数奇屋風の邸宅です。
玄関をくぐった瞬間、木の香りとともに静かな時間が流れ始め、まるで大正〜昭和初期の暮らしに迷い込んだような感覚に包まれました。邸宅内を巡ってまず惹きつけられたのは、中段の洋間。ここには、現在ではなかなか見られない貴重なピアノが静かに置かれており、空間そのものが当時の雰囲気を今に伝えています。柔らかな光と木のぬくもりの中でピアノの存在が際立ち、時間が止まったような気分になる場所でした。
続いて印象的だったのが台所。古い造りではあるものの、動線や配置の工夫がとても合理的で、現代のキッチンデザインにも通じるものがあります。昔の生活の知恵ってすごいなと思いました。センスと機能美が感じられます。
そして、狭くて急な階段を上がった先に屋根裏部屋のような部屋があります。一歩足を踏み入れた瞬間、もわっと押し寄せる熱気にびっくりしました。昔の家ならではの暑さがダイレクトに伝わり、これもまた旧寿原邸のリアルな魅力のひとつだと感じました。ちなみにこの邸宅は、1995年(平成7年)公開の映画『Love Letter』でも使われていますので、映画を見たあとに訪れるとさらに楽しめるのではないでしょうか。
現在、この邸宅の管理や一般公開を担っているのが「NPO法人 小樽古民家再生プロジェクト」。小樽市から委託を受け、庭の整備から建物の維持管理、イベント運営まで幅広く活動されています。NPO法人の方々の温かい案内、手作り感あるおもてなしが、訪れる人の心をほぐしてくれます。私が伺った日は、ほかに外国の方も見学されていました。
旧寿原邸は、豪奢な観光スポットとは違い、さまざまな人の手で守られ続ける生きた歴史を体験できる場所です。和洋が織り交ざる空間、昔の生活の気配がそのまま残る台所、汗が噴き出す屋根裏部屋の暑さ、そして温かく迎えてくれる人々。ここに足を運ぶことで、小樽という街の奥深い魅力にもう一歩近づけるような気がしました。小樽を訪れる際には、ぜひ一度立ち寄ってみていただきたい場所です。
小樽市指定歴史的建造物第27号 旧寿原邸
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101500559/
小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html