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【畳小話】

先日、家中の畳を一新しました。「玄関開けたら畳の香り」「畳で泳ぐ」という体験は、それはそれは幸せなものでした。

個人的に日本文化の代表をひとつ選ぶとしたら、私は迷わず畳を挙げます。偶然かもしれませんが、海外で日本語関係の仕事をしている親族や友人にも、自宅に畳部屋や畳スペースを設けている人が多くいます。「日本式空間」をつくるうえで、畳は欠かせない存在になっているかもしれません。

畳は「たたむ」を語源としており、その原形が敷物であったことが分かります。『古事記』や『万葉集』には、「畳」「筵(むしろ)」「薦(こも)」といった、重ねて用いる敷物を表す文字がすでに記されていました。そして、現代のようにいぐさをおもな原材料とし、畳表・畳床・畳縁から構成されるように発展したのは、平安時代に寺院や貴族の邸宅で普及した「置畳」からといわれ、当時は来客の座具や寝具として、持ち運んで使うものでした。やがて平安末期になると、上流階級の邸宅の部屋全体に畳が敷き詰められている様子が絵巻物に描かれるようになり、畳が徐々に建物の床材の一部となり始めたことが分かります。このころはまだ畳の厚みや縁の模様が身分によって定められていましたが、江戸時代は元禄年間になると大衆民家にも畳が敷き詰められるようになり、需要の増大に伴って畳作りに携わる職人の数も増えたといわれます。

今回の自宅の畳交換で一番時間がかかったのは、畳縁選びでした。もちろん今は身分による決まりはなく、亀甲や市松といった伝統柄から、現代的なキャラクターの柄まで豊富に選択肢があります。デジタルカタログを吟味した結果、全体は緑色ベースの伝統柄にし、書斎だけは「南天」というかわいらしい絵柄のものにしてみました。いわゆる「難を転じて福となす(難転)」南天の図案は、書斎での勉強や仕事で悩みが生じたとき、そっと背中を押してくれるお守りのような存在です。現代の畳縁はおもにポリエステル素材を用いることで耐久性が向上しており、我が家では猫が時々爪を立てても容易にはほつれません。

このような現代の畳の進化でもうひとつご紹介したいのが、和紙畳です。和紙畳はいぐさを使用せず、和紙を細長く撚り合わせて樹脂コーティングを施し、これを編み込んだ畳表を指します。我が家でもひと部屋取り入れました。いぐさの香りが好きなため、紹介された当初は迷っていたものの、違いが知りたいと思いひと部屋だけ依頼しましたが、その高機能性は試してみて本当に良かったと思いました。和紙畳は、まず日焼けによる色褪せがほぼありません。新品の風合いを保つことができ、美しい緑色が目を癒やしてくれます。また撥水性にも優れており、我が家としては猫の吐き戻しの掃除もとても楽になりました。

今回の畳交換は枚数が多かったこともあり、昨今の経済事情を踏まえると、正直かなり思い切った金額になり、畳の総交換は私の人生における一大イベントとなりました。「畳と女房は新しい方が良い」という諺はいったん置いておいて、次に畳表を替えるとしたら何年後になるでしょうか。この畳で十年以上は暮らしたいという思いから、長持ちさせるためのお手入れ法を調べてみると、棕櫚の箒と手箕の組み合わせが最適だと知りました。早速小ぶりのものから購入してみたり(ちなみに棕櫚は油分によるワックス効果で、板間やフローリングにも良いといわれます)、家具の下に敷板を用意したり、部屋に湿気が籠らないよう意識したりと、日々心掛けるようになりました。

畳への偏愛から、原材料が同じいぐさで作られたかご類はこれまで何個も友人にプレゼントしていて、ナチュラルな佇まいと予想以上の頑丈さ、そして色の経年変化を楽しめるところがいつも喜ばれています。またショールーム勤務の際、店頭にいぐさ商品がある日は、扉を開けた瞬間に広がる香りが私にとってのエネルギーチャージになっていました。当店では、畳部屋に合う商品も多数取り揃えていますので、ぜひショールームでご覧いただき、お気軽にご相談くださいませ。

須浪亨商店
https://www.shokunin.com/jp/sunami/
三条ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/sanjo.html
今出川ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/imadegawa.html

参考資料
山田幸一監修・佐藤理著『畳のはなし』、鹿島出版会、昭和60年11月
広島県立歴史博物館『備後表――畳の歴史を探る』(図録)、平成2年11月
画像一枚目:春日権現験記(模本、冷泉為恭他)、東京国立博物館
画像二枚目:春日権現験記絵(模本、冷泉為恭他、江戸時代)巻第十二、東京国立博物館
画像三枚目:源氏物語絵巻(住吉具慶筆、江戸時代)、東京国立博物館
画像四枚目:藺莚(長畳)、奈良時代、東京国立博物館