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【文化を未来へつなぐ街 ~横浜・山手の洋館と庭園~】

秋の入り口となった11月初旬。東北から京都へ戻る途中、横浜に立ち寄りました。新幹線から在来線に乗り換え目指したのは、今なお多くの洋館が立ち並ぶ山手の丘。JR石川町駅から坂道を歩き、まずは山手イタリア山庭園へと向かいます。

この地には明治13年から19年にかけてイタリア領事館が置かれていたことから、周辺一帯が「イタリア山」と呼ばれるようになりました。現在の庭園も、イタリアで見られる造園様式を参考に造られています。水面や花壇を規則的に配置した幾何学的なデザインが特徴で、整った花壇では季節ごとに表情を変える草花や植栽を楽しむことができます。園内には、赤いフランス瓦の屋根が印象的な「ブラフ18番館」と、尖塔を持つ「外交官の家」が建っています。いずれも歴史的建造物で、ブラフ18番館は平成5年に、外交官の家は平成9年にそれぞれ移築・復元されました。邸内に足を踏み入れると、当時の洋風家具や調度品が再現されていて、まるで100年前の暮らしにタイムスリップしたような気分に。どちらの建物も庭園の風景と調和しながら、横浜山手の洋風建築文化を今に伝える貴重な存在となっています。

住宅街を歩き、近代日本最初の教会であり、現在のカトリック山手教会の初代聖堂である「カトリック山手教会」と、イギリス人貿易商B.R.ベリック氏の邸宅であった「ベーリック・ホール」を経て、「山手資料館」へ。こちらは数多くの洋風建築の中において、唯一の「和洋併設型住宅」として建てられた木造西洋館です。明治42年(1909年)に竣工した館内では、文明開花の当時から居留地時代、関東大震災までの横浜や山手に関する資料が展示され、建物自体も横浜市の歴史的建造物に指定されています。

そして、そこから徒歩約4分の距離にある「横浜市イギリス館」も必見です。昭和12年(1937年)に、上海の大英工部総署の設計によって建てられた英国総領事公邸は、当時の東アジアにおける領事公邸の中でも上位に格付けされていた、格式のある建物でした。サンポーチから客間、食堂、広いテラスから続く芝生のある庭、さらには、玄関脇にはめ込まれた王冠入りの銘版(ジョージⅥ世の時代)や、「British Consular Residence」と記された正面脇のプレートが、旧英国総領事公邸であった由緒を示しています。

巡りの締めくくりに訪れたのは、「山手111番館」。赤い瓦屋根に白壁のコントラストが美しい、スパニッシュスタイルの洋館です。内部は吹き抜けのホールに、食堂や居室、2階には海が見える寝室や回廊があり、港の見える丘公園のローズガーデンを見下ろす立地にあるこの建物は、大正15年(1926年)に、アメリカ人ラフィン氏の住宅として建設されました。

どの建物に足を踏み入れても、建物と室内の装飾、そして庭が美しくつながり、窓の先にある海へと自然に視線が導かれていきます。そこには確かに、生活と景観の調和が大切にされていた時代の空気が漂っていました。また、当時の建物は暮らしの場であると同時に、社交やくつろぎの空間という役割も担っていたことが伝わってきます。庭で季節に触れ、サロンで音楽を楽しみ、書斎で芸術や読書に心を耕す時間が、生活の一部として息づいていたのでしょう。こうした心のゆとりや精神的な充足を生活の価値として重んじる感性は、ヨーロッパ文化の成熟を支え、社会の発展にも寄与した背景のひとつと言えるのではないでしょうか。綿々と紡がれてきたその思想が、建物の設えや庭の造形に、今も静かに刻まれているように思われます。

海を望む丘の洋館と庭を歩いていると、文明開化の名残に触れられるだけでなく、異国の文化を持つ人々が、この地でどのように自分たちの暮らしの美しさを育んできたのかを肌で感じることができます。静かな落ち着きの中に開かれた眺めが重なり、歴史と日々の営みが重なる山手の風景には、今も心の豊かさをやさしく満たしてくれる力が息づいているようです。

最後に、山手に残る洋館の多くが無料で公開されているのは、横浜市と横浜市緑の協会が公共の施設として大切に管理し、さらに地元のボランティアの方々が保存と運営を支えているからにほかなりません。歴史ある建物を気軽に訪ねられること自体が、街が文化を未来へ伝えようとする思いの表れそのものです。秋の澄んだ空気の中、山手の街で、文化の香りに触れるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか?

ブラフ18番館
https://maps.app.goo.gl/uRUyzhWDLhCkjG2i6
外交官の家(旧内田定槌邸)
https://maps.app.goo.gl/NZTsWj87CfYNNA6dA
カトリック山手教会
https://maps.app.goo.gl/YCbLUgCbQbrTbLts8
ベーリック・ホール
https://maps.app.goo.gl/JAwfKSVSyGUNnRRF7
山手資料館
https://maps.app.goo.gl/bw74mQ3M48fcuLcu7
山手111番館
https://maps.app.goo.gl/cEfCjFC4Tp2feMf4A
横浜市イギリス館(旧英国領事公邸)
https://maps.app.goo.gl/s4kBLpEct99k2jmg6

参考資料
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/park/italia/
https://hare-tabi.jp/databox/data.php/guide_yamate_cathedral_ja/code
https://hare-tabi.jp/databox/data.php/guide_yamate_museam_ja/code
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/yamate111/
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/british-house/