




【左馬】
将棋の起源は古く、5世紀ごろの北インドで遊ばれていた「チャトランガ」というサイコロ将棋にまでさかのぼるといわれています。日本に伝わった時期は定かではありませんが、遺跡からの出土品によると、11世紀の平安時代にはすでに貴族たちの間で遊ばれていたことが分かっています。中国や朝鮮の将棋とは異なる特徴を持ち、日本独自の発展を遂げてきました。現在、全国で流通する将棋駒の約9割以上が山形県天童市で作られており、生産地としては唯一、国の伝統的工芸品に指定されています。
天童将棋駒が産業として大きく発展したのは、江戸時代後期。当時、天童織田藩の用人だった吉田大八が、生活に困っていた藩士の救済として、将棋駒づくりを奨励したことがきっかけでした。武士が内職を行うことについては反対もありましたが、吉田は、将棋は兵法戦術にも通じるとの考え方から武士の面目を傷つけるものではないとし、製造法を広く紹介します。この取り組みが、のちに天童将棋駒産業の礎となりました。
天童市では、実際に対局で使われる駒のほかに、贈答用や飾りとして用いられる「飾り駒(かざりごま)」も盛んに作られています。職人が一枚ずつ手彫り・手書きで仕上げる飾り駒の中でも特に有名なのが、「左馬(ひだりうま)」。新築祝いや開業祝いなど、おめでたい場面の贈り物として人気があり、福を招く吉祥のしるしとされてきました。左馬を縁起物とする理由はいくつかあります。ひとつは、馬は左側から乗るものであり、右から乗るとつまずきやすいことから、「人生をつまずくことなく過ごせるように」といった願いが込められているというもの。また、「馬」の字を逆さに書くと「マウ(舞う)」となり、古くから祝いの席に欠かせない「舞」に重ね、幸運を招く駒とされています。
さらに左馬には、「富を招く」という意味もあります。文字の下部分は巾着の形をしており、口がしっかり閉じていてお金が逃げないことから、「財を蓄える」と伝えられています。また、普通は人が馬を引くところ、左馬では「馬が人を引く」=福を引き寄せる姿を表しており、商売繁盛や千客万来を願う人々にとって、まさに幸運の象徴と言える存在です。
2026年の手仕事フォーラム・小田中耕一カレンダー卓上型は、この左馬をモチーフにした表紙から一年がスタートします。簡素で美しく温かみのある意匠は、小田中氏が人間国宝の染色工芸家・芹沢銈介の門下で学んで得た感覚と、代々続く染物屋の伝承した技によるもの。来る午年を、縁起の良い「左馬」から始めてみてはいかがでしょうか?現在、各ショールームでも展示しておりますので、お立ち寄りの際にはぜひお手にとってご覧くださいませ。
手仕事フォーラム 小田中耕一カレンダー 卓上型
https://www.shokunin.com/jp/teshigoto/calendar.html
ショールームのご案内
https://www.shokunin.com/jp/showroom/
参考資料
https://www.city.tendo.yamagata.jp/tourism/shogi/syougikoma.html
https://publicdomainq.net/utagawa-kuniyoshi-haigo-ieyoshi-0045918/
https://archive.library.metro.tokyo.lg.jp/da/detail?tilcod=0000000003-00220786