

【小樽・奥沢水源地の水すだれ】
歴史と潮風が交差するこの港町の小樽市には、観光客でにぎわう運河や石造りの倉庫街のほかに、静かにその存在を主張する場所があります。街の喧騒から少し離れた奥沢の丘に、ひっそりと佇む奥沢水源地の階段式溢流路です。ここは、自然と人の知恵が織りなす、まるで時間が止まったかのような空間です。
階段式溢流路は、奥沢ダムと勝納川の水を放流するために、1914年(大正3年)に造られた施設です。当時、急増する小樽の人口と港町としての発展に対応するため、北海道で最も古い水道用ダムとして建設されました。設計・施工を指導したのは「近代上水道の父」と呼ばれる中島鋭治博士。寒さの厳しい北海道で、凍結や豪雪にも耐えうる構造を目指し、技術者たちが知恵を集結したそうです。このダムは、長らく小樽の水道水を支えてきましたが、2011年(平成23年)に堤体の陥没が見つかり、惜しまれつつ役目を終えました。それでも、歴史的価値と美しい景観が評価され、1985年(昭和60年)には「近代水道百選」、2008年(平成20年)には「土木学会選奨土木遺産」に選ばれています。
奥沢水源地の最大の見どころは、ダムから流れ出る水が10段の石階段を伝って落ちていく階段式溢流路です。約21mの高低差を、長い石と短い石を交互に組み合わせた階段が受け止め、水の繊細な模様を描きながら流れ落ちます。この様子がまるで水すだれのように見えることから、「水すだれ」と呼ばれるようになりました。春は新緑、夏は深い緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、季節ごとに違った表情を見せてくれるのも魅力的です。水音と木々のざわめきが心地よく、訪れるたびに新しい発見があります。
アクセスは、バス停「天神町」から徒歩約15分です。坂道をのんびり歩きながら、周囲の自然を楽しむのもおすすめです。駐車場も整備されているので、車での訪問も問題ありません。現地には案内板が設置されており、歴史や構造について学びながら散策できます。また小樽市が公開しているドローン映像では、普段見られない上空からの「水すだれ」の全体像も楽しめます。期間限定で水管橋が一般開放される時期もあります。
奥沢水源地の階段式溢流路は、土木施設でありながら、自然と人の技術が調和した小樽の静かな芸術です。観光地の喧騒を少し離れて、ゆったりとした時間を過ごしたい方にはぴったりの場所です。一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。
小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html
参考資料
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020112200714/