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【うちわに宿る日本の夏と職人の魂】

先日、札幌の実家を訪れた際、北海道も連日の30℃超えの猛暑にもかかわらず、両親は扇風機をあまり使わず、和室のテーブルの上にはうちわが静かに置かれていました。聞けば、随分昔にお店で無料配布されていたものだそうで、物持ちの良い両親は今でも大切に使い続けているようでした。うちわ二本は入れ物にぴったりと収まり、まるで季節の風物詩のような佇まい。昔の夏、お店での無料配布の定番といえば、やはりうちわだったと思います。何年使っても壊れず、丈夫で、無料とは思えないほどの品質。実家でその姿を見るたびに、風流だなと感じるのです。

うちわは、ただの涼を取るための道具ではありません。仰いで風を起こすだけでなく、日除けや虫除け、火起こしや酢飯を冷ます調理道具としても使われてきました。その歴史は古く、特に熊本県山鹿市来民(くたみ)で作られる「来民渋うちわ」は、慶長5年(1600年)に四国・丸亀の旅僧が一宿の謝礼として製法を伝えたことに始まるとされています。この伝統を今に受け継ぐ唯一の工房が、明治22年(1889年)創業の栗川商店です。栗川商店のうちわは、阿蘇外輪山産の真竹を骨に使い、手漉き和紙に自家製の柿渋を塗って仕上げられています。柿渋は和紙を丈夫にし、長持ちさせるだけでなく、防虫・防腐・防水の効果もあり、使い込むほどに色合いが深まって味わいが増していくのが特徴です。柿渋は未熟な豆柿を発酵・熟成させたもので、栗川商店では3年以上寝かせた自家製のものを使用しています。

栗川商店の「渋うちわ」は、形やサイズも豊富で、用途や好みに応じて選ぶことができます。たとえば「仙扇」は、明治時代に筆屋と茶屋とうちわ屋が共同で考案した形で、細川家の茶室で愛用されていた由緒あるデザイン。面が広く、小さな力で大きな風を起こせるため、焼き鳥屋さんや鰻屋さんでも重宝されています。また、「小丸」は昭和初期に生産されていた子供用のうちわの復刻版で、小ぶりながら柄が長く、シンプルでモダンな印象です。「仏扇」は、お灯明を消すために使われていた小型のうちわで、バッグにも収まりやすく女性に人気です。さらに、調理用としても活躍する「永大」は、酢飯を冷ましたり、炭火の調整に使われるなど、実用性の高いモデルです。どのうちわも軽くて手が疲れにくく、扇ぐ姿も美しく見えるように設計されています。

価格帯は千円台から三千円程度と手ごろで、贈り物や記念品としても人気があります。「来民渋うちわ」は「民が来る」という語呂合わせから、商売繁盛の縁起物としても親しまれてきました。丈夫で長持ちすることから、出産祝いや還暦祝い、結婚式の引き出物、企業の周年記念品など、さまざまな場面で贈られてきた歴史があります。

私自身、家ではあまりうちわを使わなくなってしまいましたが、実家でうちわ入れに収まった二本のうちわを見ると、どこか懐かしい気持ちになり、そして少しうちわが羨ましくも感じるので、お気に入りの一本を渋うちわから選ぼうと思っています。うちわは、風を送るだけではなく、心も送る道具。栗川商店の渋うちわは、そんな日本の夏の美しさと、職人の魂を感じさせてくれる存在です。

栗川商店 渋うちわ
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