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【小さな蚊遣り】

夏の夕暮れに、ふと漂ってくる蚊取り線香の香り。たとえ特別な思い出がなくても心に一筋の懐かしさが立ちのぼる、あの独特で不思議な香りは、古くから日本の夏の風物詩として多くの人に親しまれてきました。部屋にふわりと広がり、やがて消えていく形のない煙と香り。そのかすかな気配が、まるで季節や時間の記憶をも連れてくるように感じられるのは、蚊を追い払うために焚かれてきた煙が、遠く平安の昔から現代に至るまで、日本人の暮らしに静かに寄り添い続けてきたからかもしれません。

そんな懐かしい気持ちを覚えながら今年も蚊取り線香に火を点すわけですが、蚊取り線香を使っていると、途中で折れてしまったり、使い切れずに短く残ってしまうことがたびたびあります。まだ使えるのに、扱いにくくなった蚊取り線香が缶の中にたまっていくのは、少しもったいない気がしませんか?

そこでおすすめしたいのが、岩本清商店の「豆火鉢」で短い蚊取り線香を生かす方法。豆火鉢に灰を敷き、その上に短くなった蚊取り線香を置いて使います。ろくろで挽いた小さな木地に銅製の浅い落としを入れた豆火鉢は、両手にすっぽりと収まるかわいらしいサイズ。玄関先や台所、ベランダなどにさりげなく置くのにも適しています。メインの蚊遣り器では大げさに感じられるような短時間の使用にもぴったりで、ちょっと別室で一息つきたいときや、来客前の空間づくりにも活躍してくれるでしょう。お香立てとして使えば、季節のしつらえにも趣が生まれます。

金沢桐工芸は、加賀百万石の文化が息づく城下町・金沢で受け継がれてきた伝統工芸。江戸から昭和初期にかけて実用調度として用いられてきた“桐火鉢”にその起源を持ちます。良質な桐材をろくろで挽き、乾燥させたあと、表面を焼いて艶を出した独特の焼肌には、やわらかなぬくもりと凛とした美しさが感じられます。蚊取り線香の香りとともに、その佇まいもまた、夏の暮らしに静かな彩りを添えてくれるのではないでしょうか。

岩本清商店 豆火鉢 ※灰は付属しておりません
https://www.shokunin.com/jp/iwamoto/hibachi.html
蚊遣火と蚊取り線香
https://jp.shokunin.com/archives/52013038.html