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【ソーセージ】

肉製品の中でも特に歴史があり、世界中で愛されているソーセージ。これまで訪れた旅先でも、さまざまな国の個性豊かなソーセージに出会ってきました。

たとえば、「午前中の新鮮なうちに食べて!」と肉屋さんに念押しされた、ドイツ・ミュンヘンの、ハーブが香るヴァイスヴルスト。アイルランドのB&Bで、ご主人が手作りしていたブラックプディングは、豚の血を使った素朴ながら力強い味わいのあるソーセージ。メコン川のほとりで食べたラオスのサイウアは、スパイスや香草が効いた香り高い一品で、東南アジアらしい爽やかなスパイシーさが印象的でした。そして、豚の腸に春雨やもち米、豚の血を詰めた、韓国のスンデ。ビール片手につまみながら舌鼓を打ったのも良い思い出です。同じソーセージという食べ物が、国や地域ごとに材料や調理法、食べ方に違いがあることがとても興味深く、今では旅の楽しみのひとつになっています。

ソーセージの起源は、肉を無駄なく使い、長く保存するための工夫から生まれたもので、ひき肉に塩や香辛料を加え、腸などの皮(ケーシング)に詰めるという製法が、長い年月をかけて各地で発展してきました。その歴史は非常に古く、紀元前8世紀のギリシアの詩人・ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』には、血と脂肪を詰めたヤギの胃袋が兵士の携行食として登場しています。また、古代メソポタミアのアッカド文明の粘土板にも、ひき肉を腸詰した料理が記録されているそうです。中国では、乾燥させた硬いソーセージである「臘腸(ラーチャン)」などのソーセージが、紀元420~589年の南北朝時代にはすでに存在しており、455年の書物には肉をケーシングに詰める製法が記述されていました。

中世ヨーロッパでは、14世紀のポーランドでの王室の狩猟を背景としてソーセージ製造が盛んになり、おもに燻製による保存が行われてきました。その技術は現在の「クラコウスカ」「キエルバサ」といったポーランドの伝統的なソーセージに継承されています。一方、ドイツでは1432年に、「テューリンガー・ロストブラートヴルストに関する法律」が制定されました。この法律には、「豚肉で作るソーセージは、作った朝のうちに食べなければならない」といった原材料や消費期限についての具体的な規定が記されており、地域ごとのソーセージ文化が制度的にも発展していたことが分かります。

日本では、第一次世界大戦中、千葉県の習志野俘虜収容所に収容されていた約1,000人のドイツ兵の中に、カール・ヤーン氏ら5人のソーセージ職人が含まれていて、収容所内で実際にソーセージを製造していました。当時、ソーセージを高栄養食品として注目していた農商務省はこの技術に着目し、畜産試験場の技師を派遣。ドイツ式ソーセージの製法指導を受けました。やがてその技術は、農商務省が全国で開催した講習会を通じて各地の食肉加工業者へと広まり、日本における本格的なソーセージ製造の始まりとなったのです。

こうしたソーセージの歴史や地域ならではの多様性を知ると、やはり自分でも作ってみたくなります。とはいえ、最初から腸詰はハードルが高そうなので、ラップで成形する手軽な“ソーセージ風”にトライしてみました。豚ひき肉にハーブソルトとみじん切りのにんにく、黒胡椒を加えてよくこね、ラップで包んで形を整えます。あとは沸騰したお湯で茹でたあと、フライパンで軽く焼き色を付ければ完成。作りたての新鮮なおいしさは言うまでもなく、口の中に広がるジューシーな肉汁と、ふわりと広がるハーブの香りがたまりません。保存食として生まれたソーセージのルーツにほんの少しだけ触れているような、そんな楽しさがありつつ、旅先での思い出と重ねながら、自分だけのソーセージを味わう時間もまた、豊かなものに感じられます。

小笠原陸兆 フィッシュパン
https://www.shokunin.com/jp/rikucho/fishpan.html

参考資料
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%82%B8
https://en.wikipedia.org/wiki/Sausage
https://de.wikipedia.org/wiki/Wurst
https://www.narashino-cci.or.jp/narashino_sausage/history/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%82%B8
https://www.orangepage.net/recipes/301977 (参考レシピ)
https://yonasato.com/column/food/detail/sausage_howtomake_280524/ (参考レシピ)