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【白木屋漆器店】

2月後半、会津若松市内にも積雪が残り、久々に東北の冬らしい風景を目にした出張の朝。会津若松駅から徒歩で約20分、大町通りから七日町通りへ曲がると、ひときわ目立つ洋風建築が見えてきます。大正3年に竣工した石造の風格ある店舗は、ルネッサンス様式を取り入れた洋風店蔵造。土蔵の防火性を有しながら洋風のデザインを表現した3階建ての洋風商店建築は、当時低い街並みの中で目を引く存在であり、その後造られた洋風建築にも影響を与えました。えんじ色のフレームが調和する石造の壁、直線の中に柔らかく溶け込むアーチ。その外観と細部の意匠を眺めていると、大正時代の人々の目にも、この建物がどれほど美しく新しく映っただろうかと想像します。

白木屋漆器店は、慶安年間に創業し、その後、将軍徳川吉宗が法整備や税制改革をした「享保の改革」が行われた享保年間より、現在と同じ場所で漆器の製造卸業を営んできました。かつて戊辰戦争(1868年)により大きな打撃を受けた会津若松の漆器産業の復興にも力を尽くされ、地元の需要だけではなく全国に向けた販売を展開し、欧米の博覧会などでも多数の賞を受賞されています。

一歩店内に足を踏み入れると、食器を中心とした数々の会津塗が出迎えてくれました。美しい加飾が施された漆器が並ぶ中、社長さん自らがご紹介くださったのが会津塗の蒔絵の主流である「消粉蒔絵(けしふんまきえ)」。会津では江戸時代中期ごろに京都から工人を招き、消粉蒔絵の技術を導入したといわれています。消粉とは、金属箔を細かい粉状にした微細な粒子のこと。一片が数マイクロメートルの、フェイスパウダーのように細かい粉を使用するのが消粉蒔絵です。この消粉蒔絵の工程は、薄紙に下絵を写し取ったあと、紙の裏側から水溶き顔料で下絵をなぞるところから。次に、紙を器に押し当て、刷毛で擦って写します。文様に金粉を定着させるため、漆で地描きし、顔料を混ぜた漆を使って均一に描きます。地描きが終わったら加湿し、漆を生乾きにして金粉を蒔き、綿で軽く擦りなじませます。この作業を繰り返し、漆が乾いたらはみ出した金粉を取り除き、漆が完全に硬化するまで乾かして完成。繊細で輝きのある模様は、金属の粉が光を反射して、見る角度によって微妙に変化し、ふんわりと内側から光を放っているようで、上品な雰囲気が感じられます。

店舗の2階へと続く階段を上ると、文具からハレの日に使われる重箱や銚子などを見ることができます。2階部分は展示ケースも含め、建設当初の姿に近い状態なのだそう。レトロモダンな照明が吊り下がる天井には、漆喰細工の中心飾りが施され、伝統的な会津塗が並ぶ様子と絶妙に調和した雰囲気がとてもすてきです。奥には、漫画の神様・手塚治虫先生も訪れたという部屋がありました。この後、職人さんによる蒔絵の絵付けを特別に見学させていただきました。一筆一筆が驚くほど精緻で、その緊張感のある手元の動きに息を止めて見入ってしまうほど。一つの器に、貴重な時間と厳選された材料、そして時代を超えて伝承された卓越した技術が惜しみなく注がれていることを、間近で実感しました。

会津若松市へは、東北新幹線が停車する郡山駅で下車し、そこから磐越西線に乗り換えて会津若松駅まで約1時間。白木屋漆器店では、歴史と伝統が息づく建物の中で、手仕事が生み出す会津塗の美しさに触れることができます。ぜひ、その魅力あふれる漆器とともに、会津若松に脈々と受け継がれる豊かな文化を感じてみてください。

白木屋漆器店
https://www.shirokiyashikkiten.com/
動画
https://www.youtube.com/shorts/YwflY7G5XHs
https://www.youtube.com/shorts/HhP_3vdDQxc
白木屋漆器店 手塩皿
https://www.shokunin.com/jp/shirokiya/teshio.html
白木屋漆器店 干支の小盃
https://www.shokunin.com/jp/shirokiya/sakazuki.html