



【お豆腐よもやま話】
京都で暮らすようになって驚いたことの一つに、「お豆腐のおいしさ」があります。京都の人は本当にお豆腐が好きで、以前より随分少なくなったとはいえ町のあちこちにお豆腐屋さんがありますし、スーパーに行ってもたいてい何種類ものお豆腐が並んでいます。お味もお値段もそれぞれに個性があるのですが、安いお豆腐しか買えなかった学生のころから、京都のお豆腐はなんておいしいんだろうという思いは変わりません。きっと都の人々の豆腐愛が、長い年月をかけてお豆腐の水準を磨き上げてきたに違いない、と勝手に思っています。
京都のお豆腐には1000年以上の歴史があります。比較的雨の少ない気候の中で育つ良質な大豆と豊富な地下水、そして神社仏閣が多いことによる精進料理の文化によっておいしいお豆腐が育まれてきたといわれています。お豆腐といえば、硬めの木綿豆腐とやわらかな絹豆腐が一般的ですが、京都にはそのほかに木綿と絹の中間くらいの硬さの「京とうふ」があり、濃厚でありながらやわらかくなめらかという、絶妙なおいしさです。木綿と絹しか知らずに育った私は、初めてこれを食べた時に「ずっと食べたかったお豆腐だ!」と思いました。そんななんともいえない加減がいかにも京都らしさを感じさせる「京とうふ」ですが、その歴史は意外に新しく、誕生は戦後のこと。嵯峨の老舗豆腐店「森嘉」が、にがり(塩化マグネシウム)の代わりに澄まし粉(硫酸カルシウム)を使って作った「木綿でも絹でもない」お豆腐が評判を呼び、京都中に広まったのだそう。文豪に愛されたことでも有名で、「森嘉の豆腐」といえば、川端康成の『古都』を思い出される方もいるかと思います。
さて、冬の寒い季節にぴったりな豆腐料理といえば、湯豆腐。簡単でおいしく、体も温まってヘルシーと、言うことなしです。そんな湯豆腐におすすめなのが、松山陶工場の土灰斑点土鍋。といいますか、我が家は湯豆腐が大好きで、先日湯豆腐用にとこの土鍋を購入したところ、いつもの湯豆腐が大変身を遂げてびっくりしたのです。土鍋で昆布と共にじっくりと温められたお豆腐は、表面は程よく引き締まり、中はふわふわ。一口食べた瞬間、あまりのおいしさに思わず家族で顔を見合わせました。お鍋一つでこんなに変わるとは…。美食家の北大路魯山人が「湯豆腐をつくるには、次のような用意がいる。」と、その第一に土鍋を挙げているのも納得です。
北大路魯山人つながりで最後にもう一つ。三条ショールームのすぐ近く、姉小路麩屋町角にある「平野とうふ」は魯山人が好んだことでも知られる老舗のお豆腐屋さん。近くの高級旅館でもこちらのお豆腐を使っていたり、豆腐嫌いだった白洲次郎も、ここのお豆腐だけは食べたという逸話が残っていたり。そんなすごいお豆腐屋さんですが、今でも近所の方が容れ物を持って買いに来る、町になくてはならないお店です。昔ながらのやり方で丁寧に作られたお豆腐は、見た目はずっしりとしていますが食べるとやわらかくコクがあり、しかも湯豆腐にしても崩れません。お醤油をかけるのがもったいないと感じるほど繊細で、全然主張しないのに食べ終わったそばからまた食べたくなってしまうおいしさ。
身近ながらまだまだ奥が深い、お豆腐の世界です。
松山陶工場 土灰斑点土鍋
https://www.shokunin.com/jp/matsuyama/donabe.html
辻和金網 湯豆腐杓子
https://www.shokunin.com/jp/tsujiwa/yudofu.html
三条ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/sanjo.html
参考資料
https://intojapanwaraku.com/rock/gourmet-rock/1017/
https://www.keihan.co.jp/navi/kyoto_tsu/tsu200911.html
https://kyotot5.jp/interview/shinise-01/
http://www.aneyakouji.jp/stories/whoswho/vol1_2.html