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【日本のカレー】

今や日本の国民食とも言える「カレーライス」。小中学校の人気給食メニューでは、常に上位に挙げられるカレーですが、カレーはイギリスに伝わったインド料理に端を発し、やがてイギリスから日本にもたらされ、独自に発展を遂げた料理です。最近はインド・ネパール料理の人気もあり、気軽にインドのカレーを食べられるようになりました。インドの典型的なカレーは、スパイスをふんだんに使ったスープのようにサラサラしたカレーを、大きく分けて北部ではチャパティ(ロティ)やナン、南部では米と一緒に食べるとされています。それではこのインドのカレーが、どのように今日の日本のカレーライスへと進化を遂げたのでしょうか?

日本人がカレーと初めて出会ったのは、江戸時代後期のこと。1853年(嘉永6年)、浦賀へのペリー来航をきっかけに、日本は西洋諸国に向けて開国を行います。1860年(万延元年)に、日米修好通商条約の批准書交換のため、遣米使節団の一員として米国に渡った福澤諭吉は、中国語と英語の辞書『華英通語』を見つけ、これを購入して帰国。その辞書を元に、カタカナで英語の読みと、日本語の意味を書いたものを出版します。そこで、「curry」は「コルリ」という読み方で紹介されていました。やがて1870年ごろまでに、ヨーロッパやアメリカに向かう船上において、日本人がカレーを見たり食したという記録がいくつか残っていますが、これまでに見たことのない食べ物だったカレーは、当時の日本人にはそんなに好印象を持たれなかったようです。

明治期に「文明開花」の一つとして日本へもたらされたカレーは、イギリスによるインドの植民地統治を通じてインドからイギリスへ伝わり、西洋風にアレンジされたイギリスのカレーが基礎となりました。そもそもイギリスにカレーが伝わったのは、1772年ごろ。のちの初代ベンガル総督となった英国人、イギリス東インド会社のウォーレン・ヘースティングズが、カレーの原料と米をイギリスへと持ち帰ります。これまでインドではすり鉢などを使ってたくさんの香辛料をつぶしたり混ぜて調合していたものを、どこでも気軽にカレーを作るための「カレー粉」が英クロス・アンド・ブラックウェル社により商品化されたことで、カレーの形態は大きく変化しました。そして、その変化に拍車をかけたのが、カレーにとろみを出すために小麦粉を活用したことでした。

イギリスで1861年に発刊された、当時のヴィクトリア朝での料理や家庭を営むための家事の本『ビートン夫人の家政婦読本』では、カレー粉の作り方や、小麦粉を使用してカレーにとろみを付ける調理法が多数紹介されています。この時期英国で普及していたカレーは、油脂で小麦粉を炒め、「ルー」を使用した西洋風の煮込み料理に変化していたことが分かります。日本では、1872年(明治5年)に出版された敬学堂主人による『西洋料理指南』で、カレーライスの調理法が初めて紹介されました。そこで使用された食材として、「ネギ・ショウガ・ニンニク・バター・エビ・タイ・カキ・鶏肉・アカガエル・小麦粉・カレー粉」が挙げられています。材料にカエルの肉が入っているのは、フランス料理の要素を取り入れたと考えられていますが、レシピとしてはそれほど普及せず、ねぎも大正時代にはほとんど玉ねぎに置き換わりました。現在ではカレーのメイン食材となったジャガイモと玉ねぎは、明治時代においてはまだ珍しい西洋野菜でしたが、開拓地の北海道を中心に徐々に生産が広まりました。1876年(明治9年)に開校した札幌農学校(現在の北海道大学)の寮の食堂では、生徒の体格の向上のため、クラーク博士の提案で1日おきにカレーライスが提供されるようになったそうです。また、国産の安価なカレー粉の登場により、大正時代には日本のカレーライスの原型が完成したと考えられています。

近年、本場インドに日本のカレーライスが逆上陸し、インドの大都市では日本風カレーを出す和食レストランもあるようです。インド料理とは全く異なるカレーのスタイルですが、オムレツやチーズなどいろいろなトッピングができ、クールな和食の一つとして人気となる日も近いかもしれません。

青龍窯 平皿
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/hirazara.html
ヨシタ手工業デザイン室 テーブルスプーン
https://www.shokunin.com/jp/yoshita/cutlery.html

参考資料
https://www.sbcurry.com/dictionary/japan/
https://housefoods.jp/data/curryhouse/know/j_history02.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO77749350Q4A930C1000000/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B9