【事八日(ことようか)】
平安時代に始まったとされる「事八日(ことようか)」。2月8日と12月8日に行われる民間風習の行事で、「事」とは、もともと祀りあるいは祭りを表す言葉で、「コトノカミ」という神を祀るおまつりの日です。
事八日には、地域ごとにさまざまな伝承と意味が込められています。たとえば、年神様に関する正月儀礼では12月8日を「事始め」、2月8日を「事納め」と呼ぶ一方、農耕にまつわる田の神の儀礼では2月8日が「事始め」、12月8日が「事納め」とされる場合もあります。それぞれの背景は、地域の暮らしと信仰に深く根ざしています。事八日の「事」は「コトノカミ」という神様です。
事八日の風習および伝説として有名で印象的なのが、関東地方、特に千葉県から神奈川県に伝わる「箕借り婆(みかりばばあ)」という妖怪の話です。当時の人々がどれほど深く自然や神秘を感じ取り、恐れ敬っていたかが伝わってきます。
漫画家で妖怪研究家の水木しげる氏の著書『日本妖怪大全』では、以下のように紹介されています。
「この妖怪〈みかり婆(ばばあ)〉は、〈一つ目小僧〉などとともに家をおとずれる。川崎市の北部では、2月と12月の8日にやってくるといわれ、門口に篭(かご)を出しておき、家の中にこもっているのがいいとされる。
川崎市近郊では、11月25日から12月5日にかけて〈みかり婆〉がくるといって、戸口にオツバキ団子をさしておくともいう。
千葉の南部では、11月26日から10日間にわたって、山に行って仕事したり、機織り(はたおり)などしないで、静かに家の中ですごすならわしだという。
また、横浜の鶴見地方に現れる〈みかり婆〉は、みかりの《み》は蓑(みの)のことだとされ、毎年11月25日から12月5日にかけて現れる。そして、家ごとに戸をトントンとたたき、
「蓑(みの)を貸してくれ。」と言う。
この〈みかり婆〉をよけるには、戸口に団子をさしておくといいといわれる。〈みかり婆〉はその団子を見ると、ブツブツいいながら帰ってしまう。おそらく、大昔なにか宗教行事と関係のあるものだったのであろう。
いずれにしても、田舎などで静かな夜とか嵐の日などに戸をたたかれると、たたかれただけでなにか人間でないものと思うものである。それは、田舎の特別な静けさと感じによるのだろう。」
事八日は、かつては「物忌み」として日常の行為を控える日でした。千葉県南部では、旧暦11月26日から約10日間を「ミカワリ」または「ミカリ」と呼び、夜の外出や山への立ち入りを避け、家の中での大きな音、点灯、結髪、入浴などを避けて静かに過ごしました。大きな音や明かりを避ける物忌みや家籠もりが、人々の想像力をかき立て、妖怪や神の伝承を生み出したのかもしれません。民俗学者の柳田國男は、一つ目小僧を山の神が零落した姿であると説いています。
この日には、魔除けや無病息災を祈り、小豆を使った味噌汁「お事汁(おことじる)」を食べる風習があります。お事汁は、旬の野菜や豆類をふんだんに使い、家族で分かち合う特別な料理です。神様に供えるとともに、家族や地域の人々で分かち合い、その年の感謝と来年の豊穣を祈願します。里いも、大根、にんじん、ごぼう、小豆、こんにゃくなど6種類の具材を入れるため、「六質汁(むしつじる)」とも呼ばれます。小豆が魔除けとして、必ず使われるのも興味深い点です。
事八日には「針供養」を行う地域も多く見られます。折れた針を豆腐やこんにゃくに刺して神社に奉納し、裁縫の上達を願います。針供養は、年神や田の神への感謝と共に行われ、地域によって開催時期が異なるのも特徴です。
事八日は、自然や暮らしに感謝し、神秘を敬う心が色濃く残る行事です。現代の生活様式は変わりましたが、八百万の神々に感謝し、暮らしを見つめ直す機会としても、この伝統に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
輪島キリモト すぎ椀
https://www.shokunin.com/jp/kirimoto/sugi.html
参考資料
https://ja.wikipedia.org/wiki/事八日
https://kotobank.jp/word/事八日日-65604
https://ja.wikipedia.org/wiki/箕借り婆
https://ja.wikipedia.org/wiki/一つ目小僧
https://ja.wikipedia.org/wiki/物忌み
https://www.kateigaho.com/article/detail/127995
https://dot.asahi.com/articles/-/36011?page=1
https://agri.mynavi.jp/2018_12_06_50680/
https://misarin.net/youkai/frame/kaisetu/106202.htm
https://allabout.co.jp/gm/gc/467454/
https://www.nansuka.jp/yamashitasairo/p003829/