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【お米のある生活】

今年の8月から9月ごろに世間を騒がせ、「令和の米騒動」とも呼ばれた米不足も、新米が出回り落ち着きを見せました。朝・お弁当・夜と、ご飯を主食にすることが多い我が家もお米の心配をすることがなくなり一安心です。お米は、日本人の生活に古くから取り込まれてきた欠かすことのできない存在です。

お米を収穫するために人々は稲を育ててきましたが、田んぼに実った稲は収穫してすぐに食べられるというわけではありません。稲刈り、刈った稲を乾燥させる稲架掛け(はさかけ)、稲から籾(もみ)を外す脱穀(だっこく)、籾殻を取り除き玄米にする籾摺り(もみすり)、玄米から糠を取り除く精米という工程を経て、あの真っ白なお米になるのです。今は機械化が進み、稲刈りに使われる機械としてコンバインが使われており、稲刈りだけでなく、脱穀、籾の選別、稲わらの処理、籾の袋詰めなどまで一気に行うことができるようになりました。昔は稲に穂が付いたまま乾燥させていましたが、先に脱穀をして籾の状態で乾燥機で乾燥させており、籾摺りも機械で行っています。こうして玄米になった状態で出荷され、精米されるまでは温度管理された倉庫で保管、精米工場で精米や最終検査などを行い、袋詰めされ、製品として出荷されます。毎日のように目にするお米ですが、機械や工場内でこのような工程が行われているため、その様子を見ることはほとんどありません。しかし、以前は、稲作を行う農家では収穫期になると子どももご近所さんも総出で一連の作業を行っていました。そのため、学校は休みになり、都会に出ている家族も会社の休みをとって帰省し稲刈りを手伝うということもありました。お米はそれだけ私たち日本人の生活に重要な食料だったとも言えます。

こうして、大切に育てられ、収穫された稲が食卓に並ぶまでの間の工程で、稲わら、もみ殻、米ぬかという副産物も生み出されます。これらの副産物は不要なものとして処分されてしまうのかというと、そうではなくしっかりと利用されてきました。もみ殻は、そのままの状態か蒸し焼きにして炭化させ「籾殻くん炭」として土壌改良のために田畑に鋤き込まれるのにおもに使われます。硬い殻の状態を保つ強度があるため、土の中に空気を含ませることができるのです。米ぬかは、ぬか漬けのぬか床としての利用されていますが、ほかにも、ぬかを布で包んだ「ぬか袋」は、お風呂で体を洗う石鹸のように使われたり、適度な油分を含むので木製の床や柱を磨くためワックスとして使われたりしていました。米ぬかの成分がお肌にいいとして、米ぬか配合の化粧品もよく見かけますが、昔からお肌の手入れにも使われていたようです。米ぬかは、もみ殻と比べると栄養成分をたっぷり含むので、こちらも畑にまいて肥料としても使われます。米ぬかは土の中の微生物の餌となり、活性化した微生物は良い土づくりをしてくれます。

そして、一番大量に出る副産物が稲わらですが、今ではほとんどがコンバインで細かく刻まれ、田んぼにまかれます。田起こしの際に田んぼに鋤き込まれ、次に育てられる稲の養分として使われます。しかし、昔は生活必需品を作る材料として重宝されていました。衣食住のすべてに使われていたと言ってもいいほどです。「衣」に関わるものとしては、蓑(みの)として雨よけや防寒のために着るものや笠や帽子のように被り物を作ったり、縄状に縒った稲わらを編んで草鞋(わらじ)や藁靴(わらぐつ)を作ったりしていました。食に関わるものとしては、米俵はもちろん稲藁で作られていますし、稲わらに大豆を煮て包んでおくと、稲わらに付いている納豆菌のおかげで納豆が作られます。かまどでご飯を炊くときにも稲わらが使われていました。炊いたお米をおひつに移し替えたものを保温しておくための「いずみ」も稲わらを編んで作られたご飯のおいしさを保つための食に関わる道具です。稲わらの縄を束ねてたわしとして食器やお鍋を洗うのにも使われていました。

「住」に関わるものは、稲わらを編んで、筵(むしろ)という敷物や座布団を作っていました。そのほか、えじこやいじこなどと呼ばれる、稲わらで編まれたかごに乳幼児を寝かせ入れ、農作業の間のベビーコットのようなものとして使っていました。これらの道具が古くなって使えなくなったら最終的には燃やして燃料として使われ、残った灰は田畑にまかれ土へと還り、肥料としてまた次の稲や作物を育てるというサイクルで、最後まで無駄なく大切に使われていました。現代の生活では、衣食住の中に稲わらがここまで取り入れられることは難しいかも知れません。コンバインの普及により長さのある稲わらの確保も難しくなっているようです。今では限られたものでしか使われなくなりましたが、稲わらで編まれた物は、温かみが感じられ、ホッとする気がします。それは、稲を育ててくれた生産者の方や、大切に編んで形にしてくれた作り手の方の思いが込められているからかもしれません。

わらむ わらいずみ
https://www.shokunin.com/jp/waramu/waraizumi.html
わらむ 円座
https://www.shokunin.com/jp/waramu/enza.html
本間数勇商店 わら鍋敷き
https://www.shokunin.com/jp/honma/nabeshiki.html
松山陶工場 煮込み鍋
https://www.shokunin.com/jp/matsuyama/pot.html

参考資料
https://www.kubota.co.jp/kubotatanbo/
https://www.i-nekko.jp/chie/dougu/2018-060411.html