【鮎川義介】

ものづくりのまちとして発展してきた歴史のある福岡県北九州市。製造業に関するお仕事に携わる多くの方はご存じかもしれませんが、日産自動車や日立製作所を束ねた日本最大級の企業グループが北九州市の戸畑区で始まったと聞き、調べてみたところ、とても興味深く勉強になりました。

鮎川義介は、「日産自動車株式会社」を設立した人物です。日本の企業経営やものづくりの発展に革命的な変革をもたらしたとして語り継がれていますが、彼の功績を辿るうえでの基盤となり、最初に設立された会社が「戸畑鋳物株式会社」。この戸畑鋳物こそ、現在の北九州市戸畑区で始まった会社なのです。

山口県で生まれた義介は、父は旧長州藩士の家系、母は倒幕派の主要人物で維新後は明治政府の財政・外交の要職を歴任した井上馨の姪という名門の出身でしたが、初めから政治家や実業家になる道には進まず、東京帝国大学工科大学機械科へ進み、在学中には身分や学歴を隠して芝浦製作所（現・東芝）で日給45銭の職工として働きました。

当時、日本の鋳物は堅いがもろいもので、アメリカで可鍛鋳鉄の労働者として技術を身に付けると、壊れにくいこの方法こそ日本の製造業に不可欠であると確信したそうです。その数年後に渡米した際には、ゼネラルモーターズの創設期の中、アメリカの自動車産業を目の当たりにして、これからの日本での自動車への大きな可能性も抱いていました。

義介は、アメリカで学んだマレブル継手の技術を生かし製造をするため「戸畑鋳物」を設立、初の国産マレブル継手の製造を始めました。継手に刻印されたひょうたん印には、ひょうたんのように滑らかであれという願いが込められました。ひょうたん印の継手で成功を収めた戸畑鋳物は、電気炉で可鍛鋳鉄の製造に着手し、繁栄しました。

事業で成功する義介は、複数の企業を設立・吸収し、実業家として社会に求められるようになりました。1928年には鉱山事業で発展していた、義弟・久原房之介の「久原鉱業株式会社」の再建を頼まれ全力を投じることになり、就任後「日本産業株式会社」と改名。そこには、会社は日本全国の株主のものであり、日本の社会や公益の一助となるべきとの思いが込められていました。「日産（ニッサン）」という呼称が誕生した瞬間です。さらには日本産業を持株会社にし、日本鉱業、日立製作所、日産化学、日本水産など次々と翼下に収め、三大財閥である三井・三菱・住友と肩を並べるほどの巨大グループに成長させました。

その後、日本の自動車市場の将来性を確信していた義介は、自らが創業した戸畑鋳物を通じて「ダット自動車製造株式会社」を買収します。ダット自動車は、1930年台の日本において偉業を成した自動車でした。当時、路面舗装化は一部のみで砂利道が多く、鉄道が長距離の移動手段の中、長距離を車で移動すること自体が難しいとされていましたが、大阪－東京間をノートラブルで走りきったのが、アメリカ車ではなく、ダット自動車が作った純粋な国産車でした。その快挙を知り、戸畑鋳物に自動車部を創設したあと、自動車生産に向け動き出しました。本格的に自動車に取り組むようになり、ついにその時が来たと1933年、義介が設立した持株会社の日本産業と戸畑鋳物で出資し「自動車製造株式会社」を設立、翌年には日本産業が100%出資となり、「日産自動車株式会社」へと社名を変更しました。

日産自動車の発展は言うまでもなく、戸畑鋳物で始まった継手は現在も日立グループの日立金属が社名を変えた株式会社プロテリアルで製造されており、海外でも「Gourd（ひょうたん） brand」の名で親しまれ、高い評価を得ています。

現代に続く日本の社会や産業を発展させた「日本産業グループ」、通称「日産コンツェルン」。中心となった鮎川義介の始まりがこの北九州市であったことは、私たち市民にとっても誇らしく、このたびご紹介させていただきました。先日、若松ショールームの入居する上野ビルにて目を凝らしてみると、水道や電気の管の接続部にひょうたん印を見つけました。戸畑駅前には戸畑鋳物跡地（現・イオン戸畑）の記念碑がありますので、若松ショールームにお越しの際には足を運んでみてはいかがでしょうか。

若松ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/wakamatsu.html

参考資料
https://www.nissan-global.com/JP/COMPANY/PROFILE/HERITAGE/HISTORY/
https://www.nissan-global.com/JP/HERITAGE/LEGENDS/LEGEND_01/
https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2009/06/2009_06_12.pdf
https://www.hyoutan1912.proterial.com
http://shayuu-iba.la.coocan.jp/02sougyou/3gr/hitachiseisaku/kuhara-hitachi.htm