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【紙の博物館 ~桂樹舎の和紙文庫~】

毎年秋に行われ、全国的に知られる民謡行事「おわら風の盆」の開催地である富山市八尾町。300年間踊り継がれてきたという唄と踊りは、気品高く情緒にあふれ、毎年9月1日からの3日間は約20万人もの観客が優美で幻想的な踊りに酔いしれます。中心部にある格子戸や土蔵などが並ぶ石畳の街並みは、一般家屋も色や形を統一することで江戸時代のたたずまいを残し、昭和61年には「日本の道100選」にも選定されました。

桂樹舎は、この地で古くから受け継がれてきた八尾和紙の伝統を唯一引き継ぐ工房で、和紙の製造だけではなく、型染めを用いた染め紙による型染め和紙を生み出し、世に広めた立役者でもあります。先日の富山出張では、その桂樹舎に隣接した「和紙文庫」という施設を訪問することができました。

「紙」と染め抜かれたのれんが印象的な木造建築には、瓦葺きの屋根に白い壁と、落ち着いた色の木枠でできた大きな窓。なんだか眺めているだけで懐かしさを感じるのは、この建物がかつて山間部にあった小学校の分校を移築したものだからでしょうか。積雪に耐えるためのしっかりとした梁や、要所要所に太い柱を用いた雪国ならではの構造から、雪深い富山の自然が感じられます。館内に足を踏み入れると、そこはまさに昔の小学校。廊下や階段を元気に駆け回っていたであろう児童たちの姿が目に浮かび、私も自分が通っていた古い木造校舎を思い出しました。

ここでは、「紙」をテーマに世界中から蒐集されたコレクションや、和紙を加工した生活必需品としての紙製品、そして世界各地の民藝品の数々を見ることができます。教室だった一部屋一部屋には、それぞれのテーマに基づいた展示品が置かれ、紀元前1000年ごろに作られたパピルスなど紙の発展過程をはじめ、聖書やコーランといった経典、美しく浄書された楽譜などが次々と目に飛び込んできます。紙という媒体を使って情報を広く世界に発信したい、時間を超えて未来に届けたいという、当時を生きていた人々の強い思いが伝わってくるようでした。展示品の中には、柳宗悦による『手仕事の日本』や雑誌『工芸』など日本の民藝に関する資料や、民藝の美意識に基づいて集められた調度品も多く見受けられます。絨毯や椅子、机、棚といった一つ一つに確固とした美しさがあり、それらがこの空間の凛とした空気を生み出しているようにも思えました。

和紙文庫では、紙の歴史だけではなく、紙が人々の暮らしにおいてどれほど大きな影響を与えその発展に寄与したかを、静かで豊かな時間が流れる空間で学ぶことができます。四季折々の八尾町の風景と、川沿いを吹き抜ける爽やかな風を感じながら、ウォーキングがてら訪ねてみてはいかがでしょうか?

桂樹舎・和紙文庫
https://keijusha.com/washibunko/
桂樹舎 手すき和紙
https://www.shokunin.com/jp/keijusha/tesuki.html
桂樹舎 懐紙
https://www.shokunin.com/jp/keijusha/kaishi.html

参考資料
https://www.toyamashi-kankoukyoukai.jp/?tid=100167
https://www.info-toyama.com/attractions/11054
『民藝の教科書⑤ 手仕事いろいろ』久野恵一監修