


【千葉のおすすめスポット、DIC川村記念美術館】
ドーンとそびえるハウルの動く城!ではなくて、先月87歳で亡くなった現代アーティスト、フランク・ステラの『リュネビル』という巨大な立体作品です。ここは千葉県佐倉市にある、DIC川村記念美術館。大日本インキ化学工業株式会社(現・DIC株式会社)2代目の社長だった川村勝巳(1905-99)氏が、絵と語らう喜びを世の人と分かち合いたいとの思いから設立された私立美術館です。
川村記念美術館には、20世紀芸術を代表するピカソ、シャガール、カンディンスキー、ウォーホル、マレーヴィチといった巨匠たちの作品の良質なコレクションがあり、なかでも特筆すべきはマーク・ロスコ(1903-70)の作品だけを集めた「ロスコの部屋」。ロスコはアメリカで活躍した抽象表現主義を代表する画家として語られることが多いですが、本人はそうしたジャンルにカテゴライズされることを嫌っていたという、ちょっと特殊な画家です。実際、ロスコによって描かれた作品は一見単純な色面のようでありながら、見る者に深い内省を促すことから「瞑想する絵画」などとも呼ばれ、「作品の前に立つと心が落ち着く」とか、「生まれてくる前のような気持ちになった」とか、そんな感想をよく聞く不思議な絵画なのです。ロスコは生前、自分の作品がどのような空間に展示されるかということに強いこだわりを持っており、自分の作品のみが展示される空間を望んでいました。それを叶えた場所が世界にたった4カ所※だけあるのですが、この「ロスコの部屋」がその貴重な一つ。感じることは人それぞれですが、「ロスコの部屋」ではいったんいろんな分析をすべて手放して、この空間に浸ってみることをおすすめしたいです。
また、外国のお城のように美しい美術館の建築は、モダニズム建築を代表する建築家・海老原一郎(1905-90)氏によるもの。美術館の創設者である川村氏と長年の友人でもあった海老原氏は、川村氏の思いに深く共感し、ライフワークとして設計に取り組まれました。晩年は病床に臥し、残念ながら美術館の完成を見ることはありませんでしたが、病室にスケッチブックを持ち込んで、亡くなる直前まで美術館の構想に情熱を傾けたそうです。展示する作品に合わせて部屋ごとの壁や床の素材を変えたり、部屋から部屋へと続く廊下の雰囲気や休憩スペースの光に至るまで、作品と見る人に寄り添ったこだわりが詰まっています。
美術館の外には広い庭園には白鳥や水鳥のいる池があるほか、その周辺はもともとの里山の自然を守りつつ大切に手入れされており、散策するととても気持ちがいいです。このお庭は、なんと無料で開放されており、美術館に入らなくても楽しむことができます。
そんな川村記念美術館は、訪れるだけでなんだか気持ちが豊かになる、私にとっては心の充電スポットのような場所です。学生のころから、受験の合間など、自分をリセットしたいときに度々訪れていました。駅から少し遠いのですが、広い駐車場を備え、無料で駅からの送迎バスも運行してくださっています。
アートがお好きな方はもちろん、そうでない方も、ゆったりと時間のあるときにぜひ一度訪れてみていただきたい、千葉のおすすめスポットです。
※4カ所…ロンドンのテート・モダン、ワシントンD.C.のフィリップス・コレクション、ヒューストンのロスコ・チャペル、DIC川村記念美術館
DIC川村記念美術館
https://kawamura-museum.dic.co.jp/