【胡椒】
日常の料理には欠かせない「胡椒」。唐辛子、マスタードと並ぶ世界三大香辛料の一つです。胡椒の原産はインド。唐(中国)を経由して奈良時代の日本に伝わり、最初は薬として、のちに香辛料としてうどんの薬味や江戸時代には「胡椒飯」に用いられてきました。
胡椒の歴史は古く、紀元前400年ごろのヨーロッパではすでに知られた存在でした。古代ギリシャ・ローマ時代には、近種の「長胡椒」が胡椒の役割を担っていましたが、中世のころに徐々に現在の胡椒に変わっていきました。もともとハーブ系のものしかなかったヨーロッパにおいて、香辛料はその香りの魅力はもちろんのこと、冷蔵庫がなかった時代の食品の、特に肉の保存に役立つ防腐や抗菌などの効用が大きな魅力でした。
なかでも胡椒は、香り付け、くさみ消し、辛味付けの働きと防腐作用があり、大変重宝されたようです。金や銀と同じくらいの高い価値があり、人々が胡椒を求めて次々と新大陸を目指したことから、大航海時代の原動力になったともいわれています。「胡椒と霊魂のために」といわれたキリスト教の布教では、東南アジアで採れる胡椒をヨーロッパに運び、利益を上げることと合わせて、霊魂、つまりキリスト教の教えをその地域に広めていきました。一方、中国では唐時代の薬物書『新修本草』に、生薬や香辛料としても役立てられていたことが記述されています。
胡椒を意味する英語の「pepper」は、もともと古代インドの言語のサンスクリット語で長胡椒のヒハツを意味する「pippali」に由来しています。胡椒の栽培は熱帯から亜熱帯域に分布し、日本では長胡椒が沖縄で栽培されてきました。長胡椒は中国漢方やインドの伝統医学アーユルヴェーダにも利用され、独特の甘い香りとさわやかな辛味が特長です。沖縄では島胡椒、ヒハツ、ピパーチなどと呼ばれ、特に八重山地方では沖縄そばや沖縄の炊き込みご飯のジューシー、炒め物のチャンプルーに使われています。
胡椒の効果や効能は、抗菌・防腐・防虫効果のほかに、辛味成分ピペリンに栄養の吸収を促す作用や血行促進、消化機能の向上、食欲増進、抗酸化効果などがあります。また、胡椒に含まれる香り成分であるβ-カリオフィレンには、神経をリラックスさせ、怒りや不安を和らげる作用があるとされています。
江戸時代の『名飯部類』に記載されていた胡椒飯は、炊きたての白飯に胡椒を挽いて混ぜ、だし汁をかけた、いわゆる汁かけ飯でした。平安時代にご飯に水を入れた水漬けと白湯をかける湯漬けから、江戸の元禄時代にはお茶漬けを出す「茶漬屋」が登場したりと、汁かけ飯文化の中で生まれた食べ方のようです。意外にも感じられる江戸時代のスパイシーなお茶漬けは、玄米や雑穀米で作っても合いそうに思いました。いつものお茶漬けをちょっと変えたい、白ご飯のアレンジを増やしたいときなどに、ぜひお試しくださいませ。
※トップの写真は、生胡椒が入ったタイの炒め麺「パッキーマオ」です。
一陽窯 スパイスミル
https://www.shokunin.com/jp/ichiyou/spice.html
東屋 擂粉木 165
https://www.shokunin.com/jp/azmaya/surikogi.html
MokuNeji Pepper
https://www.shokunin.com/jp/mokuneji/pot.html
安比塗漆器工房 飯椀・茶漬椀
https://www.shokunin.com/jp/appi/rice.html
参考資料
https://ja.wikipedia.org/wiki/コショウ
https://www.yomeishu.co.jp/health/3921/
https://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/edo-reference09b.html