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【鈴木大拙館と本多の森公園】

江戸時代の趣が今日に残る歴史的な街並みや、日本三名園に数えられる兼六園を有し、優れた伝統工芸が綿々と受け継がれている街、石川県金沢市。数々の特色ある美術館や博物館は、訪れたい場所すべてを回るには一日では全く足りないほどの充実ぶりです。先日出張で訪れた金沢では、いくつかの美術館と博物館を巡るその途中で、これまで知らなかった素敵な公園に出合うことができました。

開通後まもない、初めての北陸新幹線で浮き足立っていた心を落ち着かせようと最初に向かったのは、金沢が生んだ世界的な仏教哲学者である鈴木大拙に関する博物館の「鈴木大拙館」。禅の思想を世界に紹介した鈴木大拙の人生の軌跡を辿るのみならず、「来館者自らが思索する場として利用すること」を目的に開設された施設です。建物は奇しくも2月に訪れた山形県酒田市の土門拳記念館と同じ谷口吉生氏による設計。展示を解説する読み物の量は少なく、まるで言葉の代わりのように、建物に満ちている静寂や、庭の水盤に落ちる雨垂れの音や、現れては消えていく水面の波紋に目や耳をそば立てていると、なんとなく自分の心の輪郭がはっきりとクリアになっていくような不思議な感覚を覚えます。言葉少ない言葉の意味を自分なりに咀嚼しながら、流れる時間を体験するだけの空間は、どこか普段の日常と切り離されているようで、建物を出た瞬間はまるで一つの旅を終えたときの気持ちに似ていたことが印象的でした。

その鈴木大拙館の裏手にある遊歩道から「緑の小径」を歩き、豊かな水が流れる滝のような用水路がある階段を登っていくと、2020年に皇居外苑の北の丸公園から移転した国立工芸館のある「本多の森公園」に出ます。雨に濡れた深い緑が美しいこの公園の概要を調べてみると、「風致公園(ふうちこうえん)」という聞き慣れない言葉に出合いました。風致公園というのは都市公園の一つで、自然の風景などの趣や味わいを享受することを目的として選定され、都市の自然な風景の維持が必要な地域について定められたものです。本多の森公園一帯は、もともとは加賀藩の筆頭家老本多家の武家屋敷が軒を連ねていた場所で、戦後には金沢市立美術工芸大学の学校用地として利用されてきました。辺り一帯を見渡すと、藩政期からあったとされる緑深い木々の間に、博物館、美術館、能楽堂をはじめとする文化施設が点在しています。

国登録有形文化財の国立工芸館は、バロックなどの古典様式を取り入れた華やかな装飾が見どころ。2つ並んだ建物はどちらも旧陸軍の施設で、そのすぐ近くには、1909~1914年に陸軍兵器庫として建てられた3棟のレンガ建築を再利用した石川県歴史博物館があります。派手な装飾はありませんが、端正で機能的な倉庫建築は、台湾など海外でも商業施設やアート空間として利用されています。その後は早足でいしかわ生活工芸ミュージアムへ。こちらの常設展では石川県の伝統工芸品36品目が一堂に展示され、現代に引き継がれる伝統工芸の今の姿を知ることができます。時間が限られている中で全施設をじっくりと堪能することは難しかったのですが、今回はこの美しい景観の公園と、そこに建てられた魅力的な近代建築に出合えたことが大きな収穫となりました。

本多の森公園を直接訪れる場合は、JR金沢駅より北鉄バス「広坂・21世紀美術館」または「出羽町」からのアクセスが便利です。金沢の街に残る歴史的な公園や近代建築を利用した施設を回りながら、当時の文化や街の雰囲気に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

鈴木大拙館
https://www.kanazawa-museum.jp/daisetz/index.html
本多の森公園
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kouen/map/park/honda/index.html

参考資料
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/modelCourse/detail_75.html
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/spot/detail_10215.html
https://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_parkgreen_tk_000072.html
https://www.hot-ishikawa.jp/spot/detail_4633.html