【日本の小麦の歴史】
日本の食生活の中では、パンや麺類の主食をはじめ、お饅頭やケーキなどの和菓子・洋菓子などで小麦粉が多く使われています。しかし、もともと日本に小麦は自生しておらず、小麦の栽培も小麦粉を使った食べ物もありませんでした。パンやケーキなどは外国から伝えられたものだと想像がつきますが、うどんなどの麺類やお饅頭といった和食・和菓子と呼ばれるものにも小麦粉が使われています。では、これらの小麦粉を使った日本の食文化はどのようにして日本に広まったのでしょうか?
小麦は、1万年前から西アジア、イラクなど中近東地域の山岳地帯の草原に、大麦と共に雑草に混ざって生えている植物でした。この野生の小麦や大麦の実を採集して暮らしていた人々は、しだいに小麦や大麦を栽培するようになりました。土器を使い煮炊きができるようになると、大麦をお粥のようにして煮て食べるようになり、粉を挽く道具が使われるようになってからは、小麦を粉にして水を加えて練って焼いたパンのようなものが食べられるようになりました。文明の発展とともに小麦は小麦粉として利用されることが多くなり、小麦粉を挽く道具や発酵の技術なども発展していきました。
一方日本では、旧石器時代の人々は狩猟・採集の生活をしていましたので、野生動物や木の実、イモ類などが食べられていました。やはり、このころの日本に小麦はありませんでした。縄文時代になると縄文式土器を使い、煮炊きが行われるようになりましたが、まだ小麦はありません。縄文時代後期になり、中国から九州へ渡ってくる人々から稲作が伝わり、米が食べられるようになりました。米は当初、狩猟採集による食生活を補完するものでしかなく、主食として米が食べられるようになりになったのは弥生時代に入ってからで、米の需要が増えたことにより稲作も広まりました。実は、小麦もこのころ稲作と共に中国の人々から伝わったのです。しかし、米が広まったのに対し、小麦はさほど広まりませんでした。これは日本の多湿な気候が、乾燥を好む小麦に適していなかったため耕作する人が増えなかったからです。作られた小麦は粉をトロトロに煮て重湯のようにして食べたり、水を加えて練って焼いた初期のパンのようにして食べられていたと考えられていますが、味も米のほうが好まれたようです。
飛鳥時代になると、現在の中国や朝鮮から仏教・経済・文化などが日本に伝えられますが、これに伴い食文化も中国の影響を受け、変化が見られました。当時中国では、小麦粉に水を加えて練った「餅(ピン)」が食べられていて、蒸す、焼く、揚げる、茹でるの方法で調理されていました。その餅(ピン)の一種であり、中国最古の麺とされる「索餅(サクベイ)」という縄のように太くねじった麺をスープに入れて茹でた料理がありました。この索餅が奈良時代に日本でも作られ、日本独自の麺料理のルーツになったようです。室町時代には「切麦(きりむぎ)」という、小麦粉を水でこねて細く切った料理が食べられており、うどんの原型といわれています。そこから江戸時代にかけて日本人の好みや風土に合わせて変化を加えながら麺料理が広まり、うどん、そうめん、冷麦のほか、そば粉と一緒に麺にしたそばが食べられるようになりました。
ほかにも、小麦粉を使ったお菓子の「唐菓子(からがし・とうがし)」やまんじゅうの起源となる「饅頭(マントウ)」や「包子(パオズ)」も中国から伝わり、日本で形を変えながら広まっていきました。中国から伝わった小麦料理・菓子も多くありますが、それ以外にも室町時代にはポルトガルやオランダからキリスト教が伝来され、それと共に「カステラ」「ボーロ」などのお菓子も伝えられました。これは、中国から伝わったものとは異なり、小麦粉に砂糖・玉子・牛乳などを混ぜ合わせて作られるもので、「南蛮菓子」と呼ばれました。
小麦を食べる文化はこのように日本でも古くからありましたが、主食としての地位はやはり米でした。これは、日本の風土に米の栽培が適しており、安定して収穫できたことが主な理由です。一方で、小麦の栽培には穂が実る5~6月に雨が続くと、実った粒から発芽してしまう「穂発芽」を起こしてしまい、品質が低下してしまうため、ちょうど梅雨の時期にあたる日本の気候は小麦栽培には向かない気候ともいえます。それでも、米栽培の二毛作の裏作として江戸時代よりも前から小麦栽培がされてきました。小麦粉を使った麺料理の代表格「うどん」が有名な香川県は、日本の中でも雨が少ないことから二毛作での小麦栽培が適している地域であったため、うどん文化が根付いたともいえます。
明治以降は海外との交流も増え、小麦料理のバリエーションが豊富になりました。それに伴い小麦粉の消費も増え、小麦の生産量も増加し、一時期は海外へ輸出していた時期もありました。しかし、気候的に不向きであることから米に比べると収穫量が不安定であり、食料としては人気があるものの小麦栽培をやめる農家が多く、小麦はほとんどを輸入に頼るようになりました。しかし、食料自給率についての意識の高まりや食の安全の面から、国産の小麦も品種改良や機械化などに力を入れるようになり収穫量の安定化・効率化が図られ、梅雨のない北海道での栽培や、関東以西では二毛作の裏作として小麦が栽培されるなど増産に向けた取り組みが行われています。この成果として、かつては自給率が4%にまで落ちた小麦ですが、今では15%ほどに回復しています。まだまだ多くを輸入に頼っていますが、日本の気候にあった小麦の品種開発が続けられています。日本の主食といえば米というイメージですが、意外にも小麦は同じくらい歴史のある食べ物で、料理のバリエーションも豊富です。
近年ではグルテンフリーという言葉が広まり、小麦粉=体に悪そうなイメージから避けているという方もいらっしゃるかもしれません。確かにアレルギーや病気で小麦が体に合わないという場合もありますが、小麦由来の食べ物がすべての人に悪影響を与えるものでは全くありません。食料自給率や食の安心安全の面からも広がりつつある国産小麦製品を手にとってみてはいかがでしょうか。
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参考資料
https://www.seifun.or.jp/pages/92/
https://hhitosaji.com/blog/121/
https://www.homemade.co.jp/column/you-know.htm
https://kagawakenudon.com/wiki/483/