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【湊町酒田と本間家旧本邸】

今年は、東北地方でも積雪が少ない近年では珍しい冬となりました。2月に帰省で訪れた山形県庄内地方も、例年であれば積雪で辺り一面は真っ白。降り積もった雪が強風で上空に吹き上げられ、道路は地吹雪で周りも見えない…というのがデフォルトだったのですが、車の窓から見渡す庄内平野は雪ひとつなく、空は青く晴れ渡り、いつもと同じ冬とは思えない風景。そんなわけで今回は、まるで知らない旅先を巡るような新鮮な気持ちで歩いた、山形県は酒田市の歴史と名所を一つご案内いたします。

酒田は、古くから最上川の舟運と北前船の寄港地として発展した湊町。北前船は、酒田からは米や山形県の内陸から運ばれた紅花を積み込んで上方へ送り、帰りの船ではその紅花で染めた京友禅や雛人形を乗せ、藩政期の京都の文化や物資を酒田に運んできました。京都や大阪との往来により酒田の町では上方文化が育まれ、その影響は江戸時代や明治時代に建てられた建築物をはじめ、京文化を取り入れて発展した祭に、関西弁混じりの民謡にと色濃く反映されています。かつては「西の堺、東の酒田」と謳われ、町人を中心とした自由で華やかな湊町文化が形成された酒田ですが、その繁栄の立役者として、自らが船を所有して北前船交易に乗り出し、米相場への投機や金融業での成功から日本一の大地主になった豪商「本間家」の存在がありました。

江戸時代には、「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」という俗謡が流行るほどの栄華を極めた本間家は、3代目当主・本間光丘の、飢饉による窮民救済のための米の備蓄計画、防砂林の植林など、商人として得た利益を酒田の町に還元することで発展に尽力した功績を評価され、荘内藩の財政改革の推進役として抜擢。武士の身分を得てからは一貫して藩の財政を好転させるために努力し、荘内藩と酒田の発展に貢献しました。

その光丘が、幕府巡見使(将軍の代替りごとに特派された役人)一行の宿舎として1768年に新築し、荘内藩酒井家に献上、その後酒井家から拝領してからは本邸として使われていたのが「本間家旧本邸」です。桟瓦葺(さんかわらぶき)平屋書院造り、旗本二千石格式の長屋門構えの「武家屋敷」と、拝領後は本間家が代々生活した「商家造り」が一体となった全国的にも珍しい建築様式で、本邸として使用されるようになってからも、武家造りの建物は特別なときにしか使用されない場所とされてきました。賓客の来訪時や特別な行事などにのみ使われた長屋門は日常的には閉門され、家族の出入りや諸用には白壁に続く薬医門というくぐり戸が使われ、身分をはっきり区別して生活していました。玄関の前には樹齢400年以上ともいわれる赤松の姿が。屋根に覆いかぶさるように生えている松は「門かぶりの松」とも呼ばれ、「奢り高ぶらず、常に低姿勢でいなさい」という本間家の精神を今に伝えています。中を進むと幕府の巡見使をお迎えした御座敷があり、柱や部屋の各部には、部屋ごとに異なる細工の釘隠しなど、随所に細やかな趣向が凝らされています。武家屋敷部分の違い棚や柱には春慶塗りが用いられ、格式の高さと落ち着いた雰囲気が伝わってきます。

また、珍しいものとしては、北前船が持ち帰った「石」が置かれている庭でしょう。上方に米などを運んだ帰りはどうしても積荷が軽くなり、船が不安定になってしまいます。そのため、交易した先の港ではその土地の石を積み込むことで船を安定させました。庭には、北海道の神居古潭(かむいこたん)石、佐渡の赤玉、伊予の青石、灯篭には岡山の万成(まんなり)石など、全国各地の石が配置されていて、庭の一角の石だけでも屋敷が一軒建つほど高価だそうですから驚きです。内部は残念ながら写真を撮影することはできないのですが、武家屋敷の部分とは打って変わって、機能的で慎ましい生活の場であった商家造りとの違いを楽しみながら見学することができます。

現在は観光施設としてはもちろん、小・中学校の学習施設としても利用されている本間家旧本邸ですが、本邸としての役割を終えてからも、昭和51年まで30年近く公民館として利用され、酒田の町と共に歩んできました。本間家の歴史を遡ると、飛砂防止のため黒松の植林、学問奨励のための寺社への寄進、火事の際には男性は火消しを、女性は炊き出しを行うなど、家中が協力して酒田の町に今できることを積み重ねてきたことが分かります。商人として社会に何をもたらすことができるかを常に問い、実行に移してきた本間家の歴史と志を今に伝える素晴らしい建物です。酒田にお立ち寄りの際にはぜひ訪れてみてください。

本間家旧本邸
https://hommake.sakura.ne.jp/

参考資料
https://www.kitamae-bune.com/travel/%E5%B1%B1%E5%BD%A2%E7%9C%8C-%E9%85%92%E7%94%B0%E5%B8%82/
https://www.pref.yamagata.jp/020026/kensei/shoukai/yamagatamonogatari/bunka/kitamaebune.html
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazaishisetsu/honmake_kyuuhontei.html
https://sakata-kankou.com/course/41339