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【京都・世界で1番美しい本屋さんへ】

先日、京都は一乗寺にある本屋さん「恵文社」のギャラリーで開催されたマーク・ピーター・キーン(Marc Peter Keane)さんの絵本『ヤナギの名』出版記念の朗読会に行ってきました。この絵本は「モノの名前を変えるだけで、世界観を変えられる」という、ちょっと哲学的なコンセプトの物語。とても素敵だったので、ご紹介させてください。

川縁(かわべり)に生えた1本の柳の木。その存在を、名前で「正確に」呼び表すためには、その木に関わったものたちも名前に加えるべきだ、そんな着想からこの絵本は展開していきます。ページをめくるごとに、柳の葉を食べにきた鹿の群れや、近くに暮らす狐の家族、木にやってきた鳥、虫、柳の木を育む水など、たくさんのものたちの名前が1つずつ「ヤナギ」という名に加わります。関わるものが増えるたびに柳の名前はどんどん長くなってゆき、最後には炭化して、木としての一生を終える。そして「モノを何かから区別する(切り離す)ためではなく、その存在を、あらゆるものとの有機的な繋がりの中で捉えるために名付けてみてはどうか」、そんな言葉が読者に投げかけられます。

もしこの絵本のように考えたとき、今、目の前にあるものはいったいどんな名前になるでしょう?たとえばひとつの器(うつわ)。器の材料である土の元となった植物、鉱物、微生物、水、土をこねて形にした職人さん、釉薬、火、器を買った人、器に盛り付けられた料理、料理を食べた人…無数の繋がりがあり、同じ種類の器であっても、ひとつとして同じ一生を辿るものはありません。人間という存在も、またしかり。

ひとつの存在の背景にある物語に想像を巡らせたとき、思いもかけぬ世界の豊かさに気付かされ、ハッとします。忙しない日々の中、表面的な出会いで通り過ぎてしまうことも多い現代ですが、何気ない世界の無限の広がりを忘れずにいたい。そんなことを思った午後でした。

作者のマーク・ピーター・キーンさんは、アメリカ出身の日本庭園作庭家で、アーティストとしても活躍されています。『ヤナギの名』は和紙を和綴じで製本した、とても美しい本でした。個展は終わってしまったのですが、絵本やキーンさんが手掛けた庭園の様子は、キーンさんのInstagramで見ることができるので、ぜひ覗いてみてください。

また、今回個展が開催されていた恵文社は、叡電一乗寺駅からすぐ、イギリス・ガーディアン紙が選ぶ「世界で1番美しい本屋10」に、日本で唯一ランクインしている本屋さんです。アンティークな雰囲気の店内には選りすぐりの個性的な本たちが並び、そのまま物語りの世界に迷い込んでしまいそう。世界中から本好きが訪れるそうで、私も行くたびにワクワクしています。

気持ちのいい新緑の季節、洛中から少し足をのばして、一乗寺界隈を散策されてみてはいかがでしょうか?

恵文社 一乗寺店
https://maps.app.goo.gl/km9rYkLYfb6ioAxp8
マーク・ピーター・キーン
https://www.mpkeane.com/
ショールームのご案内(GW期間中も今出川ショールームを除き通常営業です)
https://www.shokunin.com/jp/showroom/