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【群来(くき)】

小樽ショールームの海側の窓をチラッと見ると、空を白くひらひらと舞うものが見えました。雪が降っているのかなと思いましたが、様子が違うのでよく見てみるとカモメなどの海鳥が群がるように飛んでいて、白い羽が舞い上がる雪のようでした。小樽沿岸で「群来(くき)」が見られたというニュースを思い出し、それに誘われて海鳥たちも集まっているのではないかと思いました。

群来とは、ニシンが海岸付近に大群で押し寄せて産卵活動のために海が白濁することで、ニシンの豊漁の兆しとも言えます。ニシンは沿岸の浅く海藻の多い場所で産卵するため、2~3月ごろの日本海沿岸で見られます。しかし、群来は毎年必ず起こるものではなく、ここ10年ほどは続いて見られるようになりましたが、それ以前は小樽沿岸にニシンが来ない時期が続いていました。

小樽はニシン漁で栄えた港町と言っても過言ではありません。江戸時代~明治時代に、大阪と北海道を結ぶ日本海側の航路を往復する商船「北前船」への積荷として、北海道産の昆布や鮭、ニシンなどの海産物が積み込まれ、多くの利益を上げていましたが、なかでもニシンはニシン粕という良質な魚肥を作ることができ、菜種・綿花・藍などの作物を育てるのに重宝される商品でした。また、ニシンを乾燥させた身欠きニシンも北前船で京都へ運ばれ、京都の名物「鰊そば」を生み出したとされています。このように、ニシンが大量に獲れ、大量に売れることから出稼ぎの漁師たちも集まり、小樽近郊の漁場はにぎわいを見せていました。しかし、昭和30年ごろになると北海道沿岸でニシンの姿が見られなくなり、「幻の魚」といわれるようになりました。それまで北海道を回遊していた「サハリン系」と呼ばれる集団が北海道よりももっと北へ回遊範囲を移したことや、獲りすぎがその原因と考えられています。こうして、ニシンが獲れない時期が続きましたが、1996年にニシン漁復活のための取り組み「日本海ニシン資源増大プロジェクト」が始まり、ニシンの産卵場所の造成や稚魚の放流などを行ってきました。すると、1999年に小樽よりもっと北に位置する留萌市で待ちに待った群来が確認されました。それから数年おきに北海道の日本海側沿岸で群来が見られるようになり、小樽沿岸ではここ10年以上続けて確認されています。

そんなニシンですが、「春告魚(はるつげうお)」とも呼ばれ、小樽近海のニシン漁は1月下旬に始まり4月頭には終わってしまうので、獲れたての生ニシンが手に入るのもこの時期だけです。スーパーの鮮魚コーナーにも生ニシンがお手頃価格で並んでいます。脂ののりが良く身が軟らかいのが特徴のニシンは、塩焼きはもちろんですが、煮付けも良いですし、お刺身やお寿司を見かけたらついつい手が伸びてしまうほどの絶品です。少し前まで真冬の装いだった小樽市ですが、ここ数日は春のような暖かさが続いていて、春告魚の名のとおり、ニシンの群れと共に春の気配を感じます。

小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html

参考資料
http://otaru-fish.jp/history/heyday/
https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/ki/kouhou/70th/history/00-06.html