2026年04月

1

2a

3

5

【日本茶を楽しむ茶器選び】

新緑が目にまぶしい季節となりました。例年5月2日ごろ、立春から数えて88日目にあたる「八十八夜」は春から夏への季節の変わり目で、この時期に摘まれる新茶は無病息災の縁起物として親しまれています。普段のお茶は気軽にティーバッグで済ませてしまうことも多いですが、旬の恵みを丁寧に味わいたいと思い、改めて茶器に目を向けてみると、その奥深い種類の多さに驚かされます。

湯呑み、汲み出し、煎茶碗、玉露茶碗と、名前もさまざま。日頃、お茶を急須でいれることに慣れない私は、その違いを明確に理解しておらず、もし1種類だけ迎えるとするとどれが良いかと迷ってしまいます。意外なところでは、そばちょこも候補に入ります。素材や形、厚み、香りの立ち方や口当たりなど異なるため、似ているようでそれぞれに特長があり、味わいまでも左右するようで、季節やもてなしの心に合わせて選ぶと、いっそうおいしくお茶を楽しめるようです。

湯呑みは、もっとも親しみ深い茶器です。日常で使いやすく筒型のものが多い印象です。片手で持てる大きさで、手にしたときに温もりが伝わり、食卓や普段のおやつとなじむ存在。番茶やほうじ茶などにも適しています。

汲み出しは、口が広くやや浅めのものが多く、来客をもてなすときに茶托と合わせて使われます。香りが広がり、湯気が立ちのぼる様子が見え、くつろぎの場を演出します。

煎茶碗は、小ぶりで薄手。低めの温度でいれる上質な煎茶を味わうのに最適。白磁や淡い釉薬の器は、お茶の色を引き立て、視覚からも楽しませてくれます。

玉露茶碗は、玉露のうまみと香りをじっくり味わうための特別な器です。非常に小ぶりで薄手で繊細。柔らかな香りと口全体に広がる甘味を感じられ上質なひとときを演出します。

そして、そばちょこは本来蕎麦のつゆを入れる器ですが、その形や大きさが絶妙で、広めの口と程よい胴回りがあり、さまざまな使い方ができます。お茶の器としても違和感なく、マグカップのようにコーヒーを入れても似合います。

初夏の陽気のもとでは、軽やかで手にすっと収まる器が心地よく感じられます。素朴で味わい深い器は、緑茶の爽やかな香りを引き立て、ほうじ茶や番茶ともよく調和します。悩んだ中、一つだけ心に決めたのは、季節の移ろいとともにお茶の色を愉しみたいということでした。

青龍窯のなめらかな質感は、「残雪」と名付けられた白い釉薬で雪解けの山を表現しており、同窯の代名詞とも言える存在です。自然で優しい風合いはそのままに、やわらかな白地に新緑のようなみずみずしい緑茶が鮮やかに映えるこの器。お茶を注ぐたびに清々しい初夏の気配が感じられ、心豊かなひとときを過ごせそうです。

青龍窯 湯呑み
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/yunomi.html
青龍窯 汲み出し
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/kumidashi.html
青龍窯 煎茶碗
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/sencha.html
青龍窯 蕎麦猪口
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/soba.html

参考資料
https://www.nihonwasyokutakubunka.com/column/2942
https://www.e-cha.co.jp/contents/yunomi-erabikata/
https://nihoncha-salon.com/senchadou/what-is-senchawan/

1

3

4

【長谷園の窯出し市】

春の連休は、決まって伊賀の長谷園の「窯出し市」に出かけます。伊賀の近くに住んでいたころ、知人から「長谷園の土鍋が欲しければ『窯出し市』に行くといいよ」とおすすめされたのがきっかけで、今では毎年心待ちにしている連休の予定です。

しかし年々混雑が激しくなり、特にパンデミック以降は、朝早く出かけても会場付近で車が渋滞し、会場に入るまでにかなり時間がかかるようになってしまいました。それでもやはり、お祭りのような雰囲気や、掘り出し物に出会えるかもしれないという期待があり、なるべく都合をつけて足を運んでいます。近隣に住んでいたころは、朝一番に長谷園の「窯出し市」に行き、その後、同じ日程で滋賀県立陶芸の森で開催される「信楽作家市」をはしごするのがお約束でした。

「窯出し市」は長谷園だけではなく近隣の窯元も出店しており、伊賀や周辺のおいしいものも集まります。混雑はするものの、掘り出し物を探したり、疲れたらおいしいものに舌鼓を打ったりと、一日中楽しめます。陶器市というよりはやはり「お祭り」のにぎわいで、ついつい買い過ぎてしまうのもうれしい悲鳴です。「信楽作家市」にも同じように食べ物のテントが出ており、信楽の駅前では「春のしがらき駅前陶器市」も開催されています。こちらも存分に楽しめること請け合いです。

窯出し市や陶器市にひとつ難点があるとすれば、財布の紐がものすごく緩くなってしまうことでしょうか。それだけは毎年後悔することです。どんな用途の陶器が欲しいかを吟味して、この日に臨んでいるはずなのですが、どうしても克服できないまま今に至ります。お気に入りのうつわを探すためですから、仕方のないことなのですが、やはり悩ましくはあります。

ちなみに帰宅してからも、疲れた身体に鞭打って手に入れたうつわの目止めをするところまでが、このイベントに参加する一連の流れです。そのときのために、おいしいお土産も欠かせません。帰宅後、うつわを目止めのために鍋で煮ながら、お茶とともにお土産をいただいて、ようやくほっとひと息つけるのです。

今年も春の連休がやってきます。もし予定が合えば、長谷園の窯出し市や信楽、あるいは全国各地で行われる陶器市に足を運んでみてはいかがでしょうか。お気に入りのうつわがあると、毎日の暮らしに彩りを添えてくれます。オンラインショップで選ぶのも良いですが、実際に足を運んで選んだうつわでいただく時間には、また格別の愛着が生まれるように思います。

長谷園「窯出し市」について
https://igamono.co.jp/at-first/pottery-festival/
信楽作家市
https://www.shigaraki-sakkaichi.com/index.html
全国の陶器市
https://otonayaki.com/blogs/contents/tokiichi
ショールームのご案内
https://www.shokunin.com/jp/showroom/

Naturalis_Biodiversity_Cent

【もう一つの山桜の話】

奈良県の吉野山は古くから「花の名所」として知られ、その多くが山桜です。

今から1300年前、山岳信仰「修験道」の開祖・役行者が金峯山寺を開く際、感得した蔵王権現を桜の木に刻んだことから、吉野では桜をご神木として大切にしてきました。修験道の盛行とともに献木が続けられ、現在ではシロヤマザクラを中心に200種・約3万本の桜が山全体を覆っています。なかには樹齢数百年の巨木も現存し、長寿の木としての姿も見られます。

修験道の霊場として全国から集まった参詣者たちは、吉野の桜を「蔵王権現の神木」として崇め、祈りを込めて苗木を寄進してきました。そうして何世紀にもわたって積み重ねられた献木により山全体が桜で覆われるようになると、その壮大な美しさは参詣者を通じて全国へと伝えられていきました。こうした吉野山の桜への畏敬の念は、やがて土地の境界を越えて全国へと広がり、人々の心象風景の中に、美しくもどこか神秘的な物語として結実していきました。桜は古くから、人の願いや想いを映し出し、異界と現実をつなぐ「入り口」のような存在として語り継がれてきたのです。

ここで、秋田の民話「山桜の花かんざし」をご紹介します。宿の村の旅籠屋に、山桜のかんざしをつけたおこうという娘が「置いてください」と頼んできました。主人の七平がしぶしぶ雇うと、おこうはまめまめしく働き、店は繁盛しました。実はおこうは近くの山に住む子狐で、人間の暮らしに憧れ、母狐が山の神に願って娘を人間の姿に変えてもらったのでした。ある日、母狐が村人に捕らわれるのを見たおこうは、もうここにはいられないと悟り、山桜のかんざしを残して山に帰っていきました。

「サクラ」という言葉には、「サ」は山の神、「クラ」は神が座す場所という意味があるとされています。山桜は、古来より春に山の神から里へ降りてくる「田の神」が宿る神聖な木とされ、その花の美しさから「木花之佐久夜毘売(コノハナサクヤヒメ)」という女神の象徴として信仰されてきました。桜の下でお酒や食事を楽しむ花見の風習も、神を迎えてもてなし、豊作を願う意味が込められていたといわれています。

吉野の桜が紡いできた長い信仰の歴史や、民話として語り継がれてきた切なくはかない物語。それらはすべて、私たちが桜という存在に単なる花の美しさ以上の何かを感じ取ってきた証でもあります。現代を生きる私たちは、桜を春の訪れを告げる華やかな風景として楽しんでいます。しかし、その花びらが風に舞う瞬間に、ふと現実の境界が揺らぐような不思議な心地を覚えるのは、かつて先人たちが抱いた畏敬の念が、私たちの記憶の底に静かに息づいているからかもしれません。

山桜は、厳しい冬を越えて、静かに開花し、やがて潔く散っていきます。その姿は、一瞬の生を懸命に輝かせる命の尊さを語りかけるとともに、形を変えてもなお受け継がれていく人々の「想い」の強さを象徴しているようです。

山桜の話
https://jp.shokunin.com/archives/52029213.html

参考資料
https://www.kateigaho.com/culture/art/163044
https://namahage.is.akita-u.ac.jp/monogatari/show_detail.php?serial_no=5778
https://www.kinpusen.or.jp/about/