









【日本の「立ち飲み」物語】
日本の立ち飲みのルーツは、江戸時代に酒を小分け販売していた「請酒屋(うけざかや)」での立ち飲みにあります。当初、庶民は徳利を持参して量り売りでお酒を自宅へ持ち帰っていましたが、なかにはその場で飲み始める客が現れました。これを店に「居」ながら飲むという意味で「居酒(いざけ)」と呼ぶようになったのが、居酒屋の始まりです。
初期の居酒屋は「居酒致し候」という看板を掲げただけの非常に簡素な立ち飲みであり、当初は料理も提供されず、ただひたすらお酒を嗜むという大変クールな場所でした。客層は、男性が女性の倍を占めていた江戸の町を反映し、職人や駕籠(かご)かきといった労働者が中心です。居酒屋の店先には、日々をたくましく生きる人々による活気ある空間が広がっていました。
江戸っ子たちの飲み方には、独特の習慣がありました。当時の日本酒は濃厚な原酒だったため、店先で水を混ぜる「玉割り」を行い、度数を5%ほどに調整して提供されていました。また、儒学や当時の健康指南書『養生訓』の影響で「冷や酒は体を壊す」と信じられていたため、一年中「燗酒」で飲むのが一般的でした。彼らは「ちろり」で温めたお酒を、仕事中や朝から晩まで、日常の水分補給のように楽しむことも珍しくなかったといいます。
文化が発展するにつれ、居酒屋は店先に腰掛けたり、店内でゆっくりと座ったりする形態へと変化していきます。しかし、その一方で、立ち飲みが廃れることはありませんでした。仕事の合間に手早く喉を潤したい労働者や、酒屋の店先で気兼ねなく一杯楽しみたい人々にとって、立ったまま飲む気軽さは何物にも代えがたい魅力だったのです。
この効率性の高さは、のちの歴史の荒波でも真価を発揮します。昭和18年(1943年)の東京都では、戦時下の混雑解消のため、行政の指導により椅子を用いない「国民酒場」が生まれました。また、戦後の大阪を中心に、限られたスペースを譲り合うための独特な立ち姿「ダークダックス」が誕生。これは、当時人気の男性コーラスグループが一本のマイクに向かって斜めに重なり合って歌う姿になぞらえ、カウンターに対して半身で立つ姿勢を指します。一人でも多くが楽しめるようにと生まれた、立ち飲み屋ならではの和気あいあいとした空間活用術です。
酒屋の店頭で飲むスタイルは、各地で独自の文化を形成しました。その代表格が福岡県北九州市の「角打(かくう)ち」です。明治以降、製鉄業などで栄えた工業地帯では、八幡製鐵所などの深夜労働者が仕事帰りに早くから開いている酒屋へ立ち寄り、店の一角で飲む習慣が定着しました。以前訪れたことのある北九州市は戸畑区の角打ちで目にしたのは、空間の中央にどっしりと鎮座する大きなコの字カウンター。その古い佇まいからは、かつて多くの人々であふれ返り、活気に満ちていたであろう時代の残り香が色濃く感じられ、地域の人々の絆を支えてきた歴史の重みが伝わってくるようです。
一方、東京の下町には、戦後復興期の面影を残す「大衆酒場」が根付き、安価でボリュームのあるモツ煮込みや焼酎ハイボールを楽しみながら、見知らぬ者同士がテーブルを囲んで飲む空間が今日まで多くの人に愛されています。先日訪れた上野の大衆酒場は、まさに東京らしい活気ある大箱の立ち飲み店。ひしめき合う熱気と、絶え間なく飛び交う注文の声に、今もなお衰えることのない立ち飲み文化の勢いを肌で感じずにはいられませんでした。
近年では、昭和レトロへの関心や、1,000円前後の手頃な価格でお酒を楽しめる、いわゆる「せんべろ」の魅力、女性一人でも入れるお洒落な店舗の登場により、立ち飲みは再び脚光を浴びるようになりました。江戸の酒屋から始まった「一杯ひっかける」気軽な精神は、時代を超えて「現代の社交場」として受け継がれています。
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立飲み たきおか
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立ち飲みカドクラ
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参考資料
https://museumcollection.tokyo/works/6254229/ (Tokyo Museum Collection)
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/edosake_210716
https://monteroza.net/archives/6439
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%8B%E3%81%A1%E9%A3%B2%E3%81%BF















