



【文化が息づく場所――小樽市公会堂と能楽堂】
先日、小樽公園の一角に佇む歴史的建造物の小樽市公会堂と能楽堂、そしてその中で期間限定でオープンしている能カフェを訪れました。まるで時代をタイムスリップしたかのような感覚に包まれ、小樽にこんなにも趣深い場所があることに驚きと感動を覚えました。
小樽公会堂は1911年(明治44年)に、大正天皇の北海道行啓の際のご宿泊所として、海運業で財を成した豪商・藤山要吉氏によって建てられた建物です。建設後は小樽市に寄贈され、のちに現在の用途である公会堂として開館しました。建築には北海道の蝦夷松がふんだんに使われており、和洋折衷の美しい意匠を持ち重厚な外観と趣ある内装は、小樽の歴史と文化を今に伝える貴重な空間です。コンサートや展示会、演奏会など多彩なイベントが定期的に開催され、市民に親しまれています。
この公会堂と一体的に使われているのが小樽能楽堂です。もともとは1926年(大正15年)、小樽の豪商・岡崎謙氏が自邸の中庭に建てた私設の能舞台で「旧岡崎家能舞台」として知られています。岡崎氏は新潟県佐渡出身で、東京英和学校(現・青山学院大学)と東京高等商学校(現・一橋大学)で学び、宝生流の能をたしなんだ文化人でもありました。能舞台の建設にあたっては、靖国神社の能楽堂を参考にし、佐渡から職人を呼び寄せ、棟梁には実際に靖国神社を視察させたうえで建設を進めたといいます。
建材には佐渡産の神代杉、九州産の檜、北海道産の松など、全国から選りすぐりの木材が使われました。そして、京都から狩野派第十七代・狩野秉信氏を呼び寄せ、2カ月かけて舞台の鏡板に松と竹、揚幕板戸に唐獅子の絵を描かせました。80年以上を経た今もその美しさを保っています。舞台開きは1926年1月26日、高松宮妃や徳川家達氏らの賓客を迎え、芸術院会員・野口謙資氏らによる幽玄能が披露されました。
岡崎氏はこの能舞台を私的なものとせず、多くの市民を招き、能楽師を招いて公演を行うなど、地域文化の発展に尽力しました。その後、岡崎氏の遺志により能舞台は小樽市に寄贈され、1961年(昭和36年)に現在の場所に移築されました。1985年(昭和60年)には小樽市の指定歴史的建造物となり、1993年(平成5年)から一般公開が始まりました。2006年(平成18年)には、岡崎家から能装束や能面など約600点が小樽市に寄贈され、夏期にはこれらの文化財の展示も行われます。
そんな歴史ある公会堂と能楽堂の一角に、期間限定でオープンしているのが能カフェです。古い日本家屋を再利用した空間で、畳敷きの部屋からは手入れされた日本庭園を眺めることができ、ランチやアフタヌーンティー、夜にはお酒も楽しめる贅沢なひとときを提供しています。店内は静かで落ち着いた雰囲気に包まれ、訪れた人々が思い思いの時間を過ごしていました。隣の席からは「期間限定じゃなくて、ずっと続けてほしい」という声も聞こえ、私も心から同感でした。
能カフェの魅力は、単なる飲食の場にとどまらず、歴史と文化、そして美しい空間が融合した特別な体験を提供してくれる点にあります。小樽の歴史を肌で感じながら、静かで豊かな時間を過ごせる場所は、能楽愛好者はもちろん、歴史や建築、美しい空間に興味のある方にもぜひ訪れていただきたいスポットです。期間限定のカフェがいつか常設になることを願いつつ、また来年に再訪したいと思います。
小樽市公会堂
https://www.otarushiminkaikan.jp/koukai/
小樽市指定歴史的建造物 第12号 旧小樽区公会堂・旧岡崎家能舞台
https://www.city.otaru.lg.jp/docs/2020101500412/
旧岡崎家能舞台(小樽市公会堂内)
https://otaru.gr.jp/shop/kyuokazakike-noubutai
小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html












