
【鷺舞と七夕】
京都に住んでいると、祇園祭の7月はあっという間に過ぎてしまいます。平日・週末にかかわらず、毎日どこかで大小の行事が行われるのが、1カ月にわたる祇園祭。また、復興される山鉾や再興される奉納行事などにて、千年続く祇園祭は変化と進化の祭りとも見ることができます。毎年巡っていると、去年までは知らなかったけれど今年偶然出会い、でもじっくり鑑賞できなかったから来年もう一度チェックしたいと思える対象や行事が多々現れます。今年の終わりが翌年計画の始まりとなり、自分に残した課題をもって祇園祭を巡ることが、それなりの楽しみ方になってきたように思います。
このような流れで、今年の私的注目行事になったのが鷺舞(さぎまい)です。現代の祇園祭では、7月10日のお迎え提灯や、7月24日の花笠巡行で披露される少女たちの「子鷺踊り」がありますが、大人の鷺舞の継承は、複雑な紆余曲折を経ていました。鷺舞は最も古い祇園祭の参加形式である「風流囃子物」のひとつとなりますが、その名のとおり、二人の舞方は真っ白な頭と羽根を付けて雌雄一対の白鷺に扮し、囃子方・唄方たちと共に舞を奉納します。よく見ると、鷺の頭には小さな赤い傘があり、さらに参列する傘鉾の上部にも、頭頂に傘を付けた白鷺が橋に止まっています。実は唄の歌詞を知れば、その意匠の意味が明らかになります。
はしのうえにおりーーーたーーー
とーりはなーんどーり
かーささーぎーのー
かーささーぎーのー
ヤーかーさーさぎー
さーぎがはーしをわーたいた
さーぎがはーしをわーたいた
そう、鷺舞が本来表現しているのは白鷺ではなく、鵲(かささぎ)という鳥でした。鵲はカラスよりひとまわり小さい黒い羽根も持つ留鳥で、現代では九州などの地に生息しているものの、古代の日本にはいませんでした。しかし中国由来の七夕伝説では、彦星と織姫が年に一度天の川を渡って逢えるのは、鵲が群れを成して「鵲橋」を作って手助けしたからで、鵲の姿を見たことのない古の京の人は、「カサ(傘)+サギ(鷺)=カササギ(鵲)」でそのイメージを想像し、芸能に落とし込んでいたのです。鷺舞は、大きな謎かけを出題したような、七夕伝説を伝える風流踊りだったのです。
鷺舞に関する最古の記述は南北朝時代の日記ですが、存在自体は山・鉾の登場と同時期になる鎌倉末期からと考えられます。現代とは異なり、当時は祇園社(八坂神社)の氏子圏だけでなく、祇園社となんらかのつながりを持った遠方の職業集団も祭りに参加していたことが明らかになっています。この鷺舞も正に、相国寺に所属する北畠地域の声聞師(民間の芸能者・陰陽師)が、のちに西陣地域に居住して当時は「大舎人(おおとねり)」と呼ばれた綾織物の職人集団による笠鉾と対になり、祇園祭では鵲鉾として参加していたと考えられます。
しかし、祇園祭が応仁・文明の乱によって33年間停止となった間、組織集団と神社の関係が薄くなったのが原因なのか、明応9年(1500年)の祭り再興後、鵲鉾の記録は一切見なくなりました。ただ、戦国期の左義長の儀式で鷺に仮装した人物が描かれる史料もあり、また応仁・文明の乱以前より在京していた周防山口の守護である大内氏が鷺舞を持ち帰り、それがまた石見の津和野へ伝えられ、今や鷺舞といえば津和野祇園祭での奉納が最も有名になりました。戦後、京都では狂言師と大学生有志が一度津和野から逆輸入して鷺舞を復活させるも、神社と氏子組織との対立で20年前に中断され、少女たちの「子鷺踊り」に受け継がれました。
今年2025年は旧暦6月が閏月(うるうづき)で2回あるため、旧暦7月が遅く始まり、七夕が新暦の8月29日にあたります。伝統行事や伝説を思い巡らせば、たった1カ月前に鑑賞した祇園祭の鷺舞が真っ先に思い付き、何度も録画を見返してしまいます。
今の祇園祭の鷺舞が有志によって復興されたのは2023年ごろで、私は昨年のInstagram投稿で知ったのですが鑑賞には間に合わず、今年の課題としていました。今年は時期になると祇園会鷺舞講のアカウントをチェックして、伺えそうな奉納の日時に現地へ赴きました。七夕の季節、この鷺舞が永く継承され、多くの人々に愛される祇園祭の伝統となりますようにと、願いを込めて。
ショールームのご案内
https://www.shokunin.com/jp/showroom/
動画:2025年7月16日20時50分ごろ、南座前(職人.com三条ショールームスタッフ撮影)
参考資料
東京国立博物館蔵「月次祭礼図屏風(模本)」(筆者不明、江戸時代)
https://www.instagram.com/p/DNRn4rSSJPS/ (祇園会鷺舞講のInstagram投稿)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B7%BA%E8%88%9E (鷺舞)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%AE (鵲)
川嶋将生『祇園祭――祝祭の京都』 吉川弘文館 2010年12月
河内将芳『室町時代の祇園祭』 法蔵館 2020年7月









