2025年08月

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【鷺舞と七夕】

京都に住んでいると、祇園祭の7月はあっという間に過ぎてしまいます。平日・週末にかかわらず、毎日どこかで大小の行事が行われるのが、1カ月にわたる祇園祭。また、復興される山鉾や再興される奉納行事などにて、千年続く祇園祭は変化と進化の祭りとも見ることができます。毎年巡っていると、去年までは知らなかったけれど今年偶然出会い、でもじっくり鑑賞できなかったから来年もう一度チェックしたいと思える対象や行事が多々現れます。今年の終わりが翌年計画の始まりとなり、自分に残した課題をもって祇園祭を巡ることが、それなりの楽しみ方になってきたように思います。

このような流れで、今年の私的注目行事になったのが鷺舞(さぎまい)です。現代の祇園祭では、7月10日のお迎え提灯や、7月24日の花笠巡行で披露される少女たちの「子鷺踊り」がありますが、大人の鷺舞の継承は、複雑な紆余曲折を経ていました。鷺舞は最も古い祇園祭の参加形式である「風流囃子物」のひとつとなりますが、その名のとおり、二人の舞方は真っ白な頭と羽根を付けて雌雄一対の白鷺に扮し、囃子方・唄方たちと共に舞を奉納します。よく見ると、鷺の頭には小さな赤い傘があり、さらに参列する傘鉾の上部にも、頭頂に傘を付けた白鷺が橋に止まっています。実は唄の歌詞を知れば、その意匠の意味が明らかになります。

はしのうえにおりーーーたーーー
とーりはなーんどーり
かーささーぎーのー
かーささーぎーのー
ヤーかーさーさぎー
さーぎがはーしをわーたいた
さーぎがはーしをわーたいた

そう、鷺舞が本来表現しているのは白鷺ではなく、鵲(かささぎ)という鳥でした。鵲はカラスよりひとまわり小さい黒い羽根も持つ留鳥で、現代では九州などの地に生息しているものの、古代の日本にはいませんでした。しかし中国由来の七夕伝説では、彦星と織姫が年に一度天の川を渡って逢えるのは、鵲が群れを成して「鵲橋」を作って手助けしたからで、鵲の姿を見たことのない古の京の人は、「カサ(傘)+サギ(鷺)=カササギ(鵲)」でそのイメージを想像し、芸能に落とし込んでいたのです。鷺舞は、大きな謎かけを出題したような、七夕伝説を伝える風流踊りだったのです。

鷺舞に関する最古の記述は南北朝時代の日記ですが、存在自体は山・鉾の登場と同時期になる鎌倉末期からと考えられます。現代とは異なり、当時は祇園社(八坂神社)の氏子圏だけでなく、祇園社となんらかのつながりを持った遠方の職業集団も祭りに参加していたことが明らかになっています。この鷺舞も正に、相国寺に所属する北畠地域の声聞師(民間の芸能者・陰陽師)が、のちに西陣地域に居住して当時は「大舎人(おおとねり)」と呼ばれた綾織物の職人集団による笠鉾と対になり、祇園祭では鵲鉾として参加していたと考えられます。

しかし、祇園祭が応仁・文明の乱によって33年間停止となった間、組織集団と神社の関係が薄くなったのが原因なのか、明応9年(1500年)の祭り再興後、鵲鉾の記録は一切見なくなりました。ただ、戦国期の左義長の儀式で鷺に仮装した人物が描かれる史料もあり、また応仁・文明の乱以前より在京していた周防山口の守護である大内氏が鷺舞を持ち帰り、それがまた石見の津和野へ伝えられ、今や鷺舞といえば津和野祇園祭での奉納が最も有名になりました。戦後、京都では狂言師と大学生有志が一度津和野から逆輸入して鷺舞を復活させるも、神社と氏子組織との対立で20年前に中断され、少女たちの「子鷺踊り」に受け継がれました。

今年2025年は旧暦6月が閏月(うるうづき)で2回あるため、旧暦7月が遅く始まり、七夕が新暦の8月29日にあたります。伝統行事や伝説を思い巡らせば、たった1カ月前に鑑賞した祇園祭の鷺舞が真っ先に思い付き、何度も録画を見返してしまいます。

今の祇園祭の鷺舞が有志によって復興されたのは2023年ごろで、私は昨年のInstagram投稿で知ったのですが鑑賞には間に合わず、今年の課題としていました。今年は時期になると祇園会鷺舞講のアカウントをチェックして、伺えそうな奉納の日時に現地へ赴きました。七夕の季節、この鷺舞が永く継承され、多くの人々に愛される祇園祭の伝統となりますようにと、願いを込めて。

ショールームのご案内
https://www.shokunin.com/jp/showroom/
動画:2025年7月16日20時50分ごろ、南座前(職人.com三条ショールームスタッフ撮影)

参考資料
東京国立博物館蔵「月次祭礼図屏風(模本)」(筆者不明、江戸時代)
https://www.instagram.com/p/DNRn4rSSJPS/ (祇園会鷺舞講のInstagram投稿)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B7%BA%E8%88%9E (鷺舞)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%AE (鵲)
川嶋将生『祇園祭――祝祭の京都』 吉川弘文館 2010年12月 
河内将芳『室町時代の祇園祭』 法蔵館 2020年7月

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【植物×匠】

東京・上野の国立科学博物館では、「植物×匠」という展示が9月28日まで開催されています。スギやヒノキで柱を立て、ススキやヨシで屋根を葺き、イグサを編んだ畳の上で暮らす日本人。海から山への変化に富む地形に四季が巡り、水と緑の豊かな国に私たちは暮らしています。身近な“植物”を材料として、自然がもたらす多種多様な恵みを衣食住に役立ててきました。こちらの展示会では、日本の伝統的な木造建築を支える“植物”と“匠”の技に注目し、さらに、それらが社会の中でどのような役割を果たしてきたかという、知恵と工夫を紹介してくれています。

日本の建築文化は温暖湿潤な気候のもと独特の進化を遂げました。豊富な水資源により木材を伐採しても森林が再生できるため、石やレンガではなく、身近にある木、草、土などの自然素材が使われてきました。強度や耐久性に優れたヒノキやスギなどの樹木に恵まれたことも木材利用を推進する要因のひとつです。一方で高い湿度や地震、台風などの自然災害により木材を腐らせたり、建物が損壊することもしばしばありました。そのたびに大工や工匠たちは傷んだ箇所を部分的に交換したり、屋根の葺き替えや定期的な修理を行い建物への愛着も深めていきました。このような自然素材の活用や持続可能な開発の考え方は海外からも高く評価されています。2020年には国の選定保存技術に選ばれている17件の伝統建築技術(建造物修理、左官、茅葺、畳製作、日本産漆生産・精製、茅採取、縁付金箔製造など)がユネスコ無形文化遺産に登録されています。しかし近年では、後継者の不足や原材料の確保の困難などの問題が急速に大きくなっているようです。今後は今年のような激しい気候変動も、技術の継承と共に文化財建造物そのものの存続にも関係してくるのではないかと感じています。

当店でも、伝統を引き継ぎながらも新しい発想で楽しませてくれる「わらむ」のわら細工を取り扱っています。南信州伊那谷の米どころ「めしのしま」なる飯島町で、伊那谷だけで栽培される希少な古代米の「白毛餅米」の稲を中心に使用しています。この稲は、強さとしなやかさ、太さと高い背丈を併せ持つため、嵐が来ても地に倒れにくいことから「勝わら」と呼ばれています。神事用に用いたり、“土が付く”ことを嫌う相撲界では縁起の良い藁として愛されています。藁には田んぼの窒素を浄化する高い機能があることも報告されているので、環境保全の面でも期待されていますし、芳しい香りや癒やされるリラックス効果もあります。銀座ショールームにも現在“わらいずみ”が展示されていますが、出勤の際にドアを開けると香る、天然のアロマがたまりません。植物の自然の力には驚かされるばかりです。わらむでは、わら細工製作や伝統継承だけではなく、藁に親しむ“わら道場”“米俵マラソン”や、藁を買い取り全国へ流通させるというような、農家の方が潤う仕組み作り“わらしべ長者プロジェクト”などにも取り組み、注目されています。

上野で開催されている「植物×匠」の展示やわらむのさまざまな取り組みを拝見すると、今回は“稲わら”“植物”にまつわる日本の文化でしたが、決して一つだけの文化ではなく、いろいろなほかの文化とも絡み合い、循環しながら、私たちの生活が成り立っているのだなと改めて感じることができます。まだまだ暑いですが、博物館は涼しいのでぜひお出かけください。そして、わらむの販売ページには想いのこもった動画も掲載されておりますので併せてご覧ください。

わらむ わらいずみ
https://www.shokunin.com/jp/waramu/waraizumi.html
銀座ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/ginza.html
国立科学博物館・竹中大工道具館共同企画展「植物×匠 めぐるいのち、つなぐ手しごと」
https://www.kahaku.go.jp/event/2025/07plantsandcrafts/

参考資料
https://waramu.jp/
https://plantsandcrafts.dougukan.jp/

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【ハイイロチョッキリ】

先日、群馬県の水上高原で夏の山を散策してきました。足元には葉の付いたドングリがたくさん転がっています。かわいらしいので思わず持って帰りたくなるのですが、注意が必要です。枝の先がチョッキリときれいに切れているものには、「ハイイロチョッキリ」という昆虫が産卵していることが多く、中から幼虫が出てきてしまうのです。

ハイイロチョッキリはゾウムシの仲間で、枝をチョッキリ切り落とす習性から名付けられたそうです。長い口の先のあごでドングリに穴をあけ、卵を産みつけたあと、枝ごと切り落とします。この作業には3時間以上かかることもあり、驚くほど根気強い仕事ぶりです。

なぜそこまで時間をかけて枝を切り落とすかというと、植物が持つ防御反応を避けるためだと考えられています。植物はかじられると特殊な物質を分泌し、昆虫にとっては毒になったり、天敵を呼び寄せたりします。ハイイロチョッキリは、この防御を絶つために、産卵したドングリを切り落としているのです。なぜ切り落としてから産みつけないかについては、卵からかえった幼虫に、できるだけ新鮮な状態でどんぐりを食べてもらいたいという親心と言えます。

森にたくさん実るドングリのうち、発芽して成長できるのは2%ほどといわれます。残りは動物や昆虫の食料になったり、条件が合わず発芽しなかったりします。こうして見ると、ドングリは森の生態系を支える大切な存在であり、小さな命の営みが集まり豊かな森を形づくっています。森の生き物たちの世界は興味深いですね。

参考資料
https://www.japan-parkranger.com/column/wonder/no-111-ハイイロチョッキリの話
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005401434_00000