



【江戸の『豆腐百珍』と「玲瓏(こおり)とうふ」】
今年は祇園祭の宵山を待たずに梅雨が明け、京都ではすでに本格的な夏が始まっています。例年なら、雨の季節を挟んで少しずつ夏の準備を進めるところですが、今年は不意打ちのような季節の変化に、衣食住のモード変更もどこか慌ただしく感じられます。麦茶の準備は早々に始まり、熱い蕎麦は冷たい素麺に、氷を作る回数もぐんと増えて、一気に「夏」のスイッチがオンになりました。今年の夏は長くなりそうです。だからこそ、ひんやり冷たいもので体の内側から涼を取りつつ、心穏やかに過ごしたいもの。そんなことを考えていた時、先日からパラパラと読んでいた江戸時代の料理本『豆腐百珍』の現代語版の中に、夏のデザートにもなりそうな清涼感あふれる一品を見つけました。
江戸中期の天明2年(1782年)に出版された『豆腐百珍』は、豆腐を用いた百通りの料理法を紹介し、江戸の庶民の間で一大ブームを巻き起こした料理書です。その人気ぶりは翌年に『豆腐百珍続篇』などの続編が発行されるほどで、さらには『大根百珍』や『鯛百珍』など、ほかの食材を扱った「百珍物」と呼ばれる料理本の人気を牽引しました。この本では、豆腐料理が「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」という6段階に分類・評価されているのも特徴です。特に「絶品」に分類される豆腐料理は、単なる珍しさや見た目の美しさだけでなく、豆腐本来の持ち味を深く追求したものであったとされています。
その中でもひときわ変わったもので、人の意表を突くような料理として「奇品」に分類されているものの一つに、「玲瓏(こおり)とうふ」があります。料理名に冠された「玲瓏(れいろう)」というのは、玉などが透き通るように美しいさま。そこに「こおり」というふりがなが当てられているのを目にしただけでも、なんとも言えない涼しさが心をかすめていきます。そのレシピは、「干凝菜(かんてん)を煮ぬき 其湯にて豆腐を烹(たき)しめ さましつかふ 調味このみ随(しだ)ひ」というシンプルな一文。「寒天を煮溶かし、その煮汁で豆腐を炊き固め、冷まして用いる。調味は好みに応じて」とあり、つまりは豆腐を寒天で寄せたものですが、特定の味付けは書かれていません。食べる人の好みに応じて、醤油や薬味、辛子で、さっぱりとしたおつまみに、あるいは黒蜜やきな粉をかけて冷たいデザートにもできるところに、このレシピの自由度の高さが感じられます。寒天用の流し缶がなくても、手持ちの器に豆腐と寒天を流し入れて作ることができます。
今回はなめらかな絹豆腐と黒蜜を使って、ひんやり甘いスイーツにしてみました。大寺幸八郎商店のかなまりにのせると、透明な寒天と真っ白な豆腐が、いっそう涼しげに見えてきます。冷蔵庫のなかった江戸時代に、見た目や食感、そして冷たい温度まで、五感で涼を感じさせてくれるこの料理は、暑い季節にも心地よさをもたらす一品として、江戸の人々の豊かな季節感と美意識を映し出しているようです。
大寺幸八郎商店 かなまり 小
https://www.shokunin.com/jp/otera/kanamari.html
青龍窯 湯呑
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/yunomi.html
青龍窯 汲み出し
https://www.shokunin.com/jp/seiryu/kumidashi.html
小泉硝子製作所 平底蒸発皿 60mm
https://www.shokunin.com/jp/koizumi/johatsu.html
三条ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/sanjo.html
参考資料
https://amzn.to/3ImhQfr
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%86%E8%85%90%E7%99%BE%E7%8F%8D
https://dl.ndl.go.jp/pid/2536494/1/25
https://kotobank.jp/word/%E7%8E%B2%E7%93%8F-661266
https://www.ja-tottoriinaba.jp/product/recipe/detail/%e7%8e%b2%e7%93%8f%ef%bc%88%e3%81%93%e3%81%8a%e3%82%8a%ef%bc%89%e3%81%a8%e3%81%86%e3%81%b5 (レシピ)









