


【比翼の鳥、連理の枝】
昔、漢文の時間に習った『長恨歌』。言わずと知れた、玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を描く白居易の長編叙事詩で、日本でも『枕草子』や『源氏物語』にその影響が指摘されていたり、屏風や絵巻、浮世絵など、さまざまな絵画のモチーフになったり、調度に描かれたりと、古くから親しまれてきました。
物語に登場する数々のエピソードの中でも特に有名なのが、愛し合う2人がいつまでも一緒にいられるように願って語り合ったとされる「天に在りては願わくは比翼の鳥と作(な)り、地に在りては願わくは連理の枝と為(な)らん」という言葉。『長恨歌』以降、「男女がきわめてむつまじい様子」を表す表現として繰り返し用いられてきました。
ところで、「比翼の鳥」「連理の枝」とは、いったいどんなものなのでしょうか。まず「比翼の鳥」というのは、雌雄でそれぞれ目が一つ、翼も一つしかないために二羽一体となって飛ぶという伝説上の鳥なのだそうです。ずいぶん不思議な話ですが、なんとなく想像はできます。一方「連理の枝」はというと、「別々に生えた木の枝がくっついて木目が連なっているもの」という説明。私には何度読み直してみてもイメージできませんでした。理解することを諦め、そして諦めたことすら忘れ、はや幾年…。
ところが先日、滋賀県の坂本周辺を散策していた折、偶然通りかかった山沿いの細い道で「連理の枝」という立札に出合いました。驚いてその場所を見ると、そこに生えている2本の木から伸びた枝が、つながって一つになっているのです。その様子は、固く手を取り合っているようにも見え、離れずにいたいと願った恋人たちがこうした木々に思いを重ねたというのもうなずけるような気がしました。思いもかけず長年の謎が解決です。
さて、余談になりますが、こうしてせっかく出合った縁起物。夫婦円満のお守りにと思い、両親にも写真を送ったところ「ちょうど朝のドラマで“永遠を誓わない愛”というのが出てきて、良い考えだと思っていたところだった」という、にべもない返信が…。かつて多くの人々が憧れたという玄宗皇帝と楊貴妃の恋物語ですが、時代とともに理想の関係性もずいぶんと変化しているようです。
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参考資料
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E6%81%A8%E6%AD%8C